●友達のままで

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「それが今回、『こめ』名義でしか出してない曲を何曲かやったんだから、古くからのファンとしては感激しない訳にはいかないじゃん! 『こめ』の時の曲を、ボカロじゃなく米倉さんの声で聴くって事自体、もうレアな体験なのに! しかも、ライブハウスだから米倉さん凄い近かったし、ホントチケットが当たってて良かったと思う!」 「あぁ、俺。 ファンになったのは、米倉翔吾としてデビューしてからだからなぁ。 だから、『こめ』の時のアルバムは、そこまで聴いてないんだ。 いつかは、聴こうとは思ってんだけど」 米倉翔吾はデビュー前、「こめ」という名前でボカロPとして活動しており、ファンにとってそれはもはや常識なのだが、その時期からのファンではない僕は言わば「新参者」であった。 「『こめ』の時もいいよ! 何だったら、アルバム貸すし! 私、『こめ』の時のアルバムも全部持ってるから!」 押し寄せる人波によってはぐれないよう、僕の左腕を掴みながら言葉を返すマコト。 傍目から見たら僕らのこの様は、ちょっとしたカップルに見えている事だろう。 「じゃあ、借りようかな。 つーか、米倉翔吾のファンって言っておきながら、『こめ』時代をスルーしてんのが、今日のライブで何か恥ずかしくなってきた」 歩きながら僕が言い終えるのと同時に、僕ら二人は狭い通路から幾分ひらけたライブハウスのエントランスホールへと出た。 「さて、これからどうする!」 腰にぶら下げていたペットボトルを一口飲みながら、マコトが僕に訊く。 「まだ、9時前だしね。 ファミレスかどっかで晩ごはん食べて帰る? まっ、そこのサイゼもロイホも多分いっぱいだから、ちょっと歩かなきゃだけど!」 「いや……、今日はもう帰るよ」 僕は、マコトの誘いに断りを入れた。 「さすがに、付き合ってもいない女の子と二人で夜遅くまでいる、ってのもどうかと思うしね。 それに、明日大学終わったらソッコーでバイトに行かなきゃだから、今日夜更かしとかしたら多分体力が持たないよ」
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