●マルシェ

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『男なんて皆、こっちの気を惹こうと思って適当にいい事を言うけど、いざこっちが振り向いたら途端に手のひら返す生き物なんだから』 マコトがどういう人生を歩み、何をしているか、僕は知らない。 しかし、このマコトのひねくれた男性観は、過去に何かあったと僕に思わせるに十分なモノであった。 「まぁ、付き合うのを断られたら、それはそれで仕方がねえって話だけどよ……」 広田は言うと、ゆっくりと踵を返す。 「けど、アタックするしねえは自由だろ? お前がマコトちゃんと付き合ってる、っていうのならともかく、マコトちゃんはフリーっぽいんだからよ。 むしろ、友達の女の子に彼氏が出来るかもなんだから、お前的には万々歳だろ」 「マコトがお前と付き合って幸せになるとは、俺的には到底思えないけどな」 自信満々な素振りを見せる広田に僕は軽く嫌味を言うと、その広田を振り切るように歩き、切符売り場で切符を買った。 続いて、森や田渕といった面々が切符を買ったのを確認すると、僕はスマートフォンをいじりながら切符を買っている広田を置き去りにするように、先に改札を通り抜ける。 「おい有岡、広田がまだ切符買ってねえよ」 しかし、田渕の言葉で引き止められた僕は、やむなく広田が改札を通り抜けるのを待った。 「うほ、すげぇー」 そして、ホームで帰りの電車を待っていたのだが、広田はおさまる事の知らないLINEの通知に歓喜し、その通知画面を僕らに対して見せてきた。 「見ろや、この子ら。 『今度は二人で遊びに行こう』とか、結構ノリ気だぞ。 噂のマコトちゃんからもLINEが来てるし、お前らなんでLINE聞かなかったんだよ」 目の前にあった「合コン」という機会を有効活用出来なかった森と田渕の二人は、歓喜する広田のその様を悔しさを表情で現す事で応えるのみであった。 そして僕は、この「合コン」という場によって、広田とマコトを繋げてしまった事を徐々に後悔してきていた。 ──もし、マコトが広田と付き合うとなったら、どうしよう。 僕は思ったが、マコトの気難しい性格がそれを阻む事を期待し、右耳で広田のスマートフォンの通知音を聞きながら、車窓の向こうに流れる夜景をただ見つめていた。
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