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コインロッカーで、預けていたPORTERのバッグをマコトが取り出すと、もはや僕ら二人には「帰宅」というイベントしか残されていなかった。
「じゃあ、LINEでまた俺の住所と本名送るからさ。
『こめ』の時のアルバム、着払いで送るなり何なりしてよ。
もし、また会えるのなら、その時に持ってきてもらってもいいし」
駅まで歩を進めている間、僕は沈黙を避ける為、マコトに対して言葉を述べていく。
しかし、マコトは僕と違い沈黙を歓迎しているのか。
ライブ後に見せていた興奮がまるで嘘であるかのように、マコトは塞ぎこんだまま言葉を発そうとはしなかった。
「……マコト?」
僕は歩くスピードを緩め、マコトの横顔を覗き見る。
「もう、帰るの?」
マコトはデスマスクのように感情を押し殺した表情でもって、僕に対して問いかけた。
「まぁ、明日大学に出なきゃいけないしね」
僕は眉尻を下げながら、言葉を返す。
「ちょっとでいいから、付き合ってよ。
タクヤ、私の事をこれからも『男』として接していく、って言ったでしょ。
だったら、晩ごはんくらい付き合えるでしょ」
「でもなぁ……」
実は言うと、僕が頑なに「帰る」と言っていたのは、持ち合わせが2000円程しか無いという事情があったからだ。
「お金無いから、もう『帰る』って言ってんじゃないの?」
マコトは、僕の心を読み取ったかのような、正鵠を射た言葉を述べる。
「いや、まぁ……」
「おごってあげるよ。
いや、おごってもらうのが嫌なら貸してあげるよ。
だからさ、晩ごはんくらい付き合ってよ。
こっちはさ、家に帰っても一人だから、少しでも誰かと長くいたいんだよ。
それが彼氏だろうが、Twitterで今日知り合った男だろうが、誰とでもね」
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