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「えっ、マコトって独り暮らししてるの?」
服の裾を引っ張るように、名残惜しく誘ってくるマコトだが、その誘いに対して僕は素っ頓狂とも言える問い掛けをしてしまった。
先程、引きこもりであると述べていたのに、「独り暮らし」を匂わせるマコトの言動の方が、僕は気になって仕方がなかったからだ。
が、やっぱりというか、今のマコトにとって僕のその問い掛けはどうでもいい事らしく
「どうすんの、晩ごはん行くの?」
と、強い語調で訊いてくる。
「……まぁ、ちょっとだけなら」
根負けした僕は頷くと、マコトの表情からはその苛立ちが消え去り、洗い立てのグラスに注がれたミネラルウォーターのように澄みきった笑顔を浮かばせた。
「じゃあ、何処で食べてく?
目の前に居酒屋があるけど、もうそこにする?
この辺、ファミレスはさっきのサイゼとロイホ以外は無さそうだしね」
「いや、その隣のマクドナルドでいいよ……」
僕は冷や水を浴びせるように、淡々とマコトに対して自分の希望を述べた。
「マックなら、仮に店の中がいっぱいでも、外で食べる事が出来るしね。
つーか、もうそれでいいよ。
さっきも言ったけど、遅くなると明日の朝がちょっとツラいんだよ」
僕がこの時、居酒屋ではなくマクドナルドを推したのは、マコトとは「友達のままで」いたいという思いが強かったからだ。
あくまで肌感覚でしかないが、妙な自信がある。
居酒屋で酒を飲み、もし僕がその気になったとすれば、このままマコトと寝る事が可能ではないのか、と。
もちろん、僕の自分勝手な思い込みかもしれない。
仮に、僕がマコトに対して「そういう流れ」に持っていこうとしても、マコトがそれをするりとかわす可能性は十分にあるのだ。
が、なぜか今の僕にはマコトが「その流れ」に乗ってくる、と思える自信があった。
しかし、仮に僕のこの自信が正しくても、マコトとは今、そうすべきでは無いと思っていた。
もし、僕がマコトに対して「そういう気持ち」を持ってしまうと、Twitterにおいて1年近くやり取りする事で育んできたマコトとの「友情」も、その場で失ってしまうような気がしたからだ。
「マックって気分じゃないんだよねー。
何か、ちゃんとしたのを食べたい気分っていうかさ」
案の定、マコトは僕の提案に対して難色をしめす。
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