●恋心

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電車が乗り換え駅についた。 僕は三浦キヨミを伴って電車を降りると、地下鉄に乗り換え、ドームの最寄り駅で地下鉄を降りる。 「凄い人ですね……」 開場の一時間前であるからか、ドーム周辺は暇を持て余したライブ参加者で溢れていた。 「ドームだしね。 つっても、俺はドームでのライブとか、米倉翔吾に限らず一切行った事ないんだけど」 僕は答えると、特に何をするというでもなく、キョロキョロと辺りを見回した。 「ところで、どうする。 グッズとかは買わない、って流れだけど、せめてツアートラックだけでもライブに行った記念として写真を撮る?」 「あっ、そうですね。そうしましょうか」 三浦キヨミが頷いたのを確認すると、僕ら二人はドーム周辺に停車させていると思われるツアートラックを、歩き回る事で探した。 ツアートラックは、ドームに直結している歩道橋の真下に停車されていた。 が、やはり考える事は皆、一緒なのか、ツアートラック前はライブ参加者が行列を作る事で順番待ちをしていた。 「開場までに、ツアトラの写真撮れますかね……」 グッズであるマフラータオルを広げ、ツアートラック前で友達同士で撮影し合っているライブ参加者を見ながら、三浦キヨミが心配そうに僕に訊いてきた。 「大丈夫だよ。 別に開場してすぐ開演、って訳じゃないからね。 ツアトラの写真を撮って、コンビニで飲み物買ったら、ちょうどいい時間にドームの中に入れるんじゃないかな」 「あっ、そうなんですね。 アタシ、何か勘違いしていた……」 どうやら、「開場」と「開演」を混同していたらしく、三浦キヨミは納得した表情を浮かばせると、楽しげに撮影をしているライブ参加者を見つめながら順番を待った。 僕らの前にいた女の子の二人組が、互いに写真を撮り、ツアートラック前から歩き去っていくと、ようやく僕ら二人の順番がやってきた。 三浦キヨミと僕は、他の参加者みたくツアートラック前で記念撮影をするのではなく、無人のツアートラックそのものを写真に収めると、順番を待つ次の参加者に配慮する形で、足早にその場を後にした。
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