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三浦キヨミが連れていってくれたラーメン屋は、今、新たなスタンダードとなりつつある「泡系」のラーメンであった。
トロトロに煮込んだ鶏ガラスープをブレンダーで泡立て、スープパスタのように出されたそのラーメンは、醤油やトンコツに慣れ親しんだ僕には個性的としか表現出来ず、「旨い」「マズイ」という判断より戸惑いが先に出た。
「美味しいでしょ?」
が、カウンター席でラーメンをすすっている三浦キヨミは、至福の表情を浮かばせながら僕に訊いてくる。
「うん、美味しい」
未知なるその味に僕は未だ戸惑いを抱いていたものの、三浦キヨミのその表情を前に「分からない」とはとても言えず、やむ無く迎合するように「美味しい」と答えた。
ラーメン屋を後にし、左手に巻いたG-SHOCKで時刻を確認すると、10時を回っていた。
「また、米倉翔吾のライブがあったら、優先的にアタシを誘ってもらっていいですか?」
券売機で切符を購入した後、三浦キヨミは振り返り、愛嬌たっぷりの声色でもって言う。
「今日のライブで、米倉翔吾の事が凄く好きになりました。
曲も気になったのをスマホにダウンロードするだけで、CDとか持ってなかったんですけど、今日のライブをキッカケに徐々に集めてみようと思います」
「良かったら、CD貸そうか?
俺、米倉翔吾の曲は全部iPodに取り込んでるし、別にCD貸してもいいよ」
「あっ、じゃあまた根本さんの飲み会に参加した時にでも貸してください。
白石さんに根本さんの飲み会、『また来てよ』って誘われてるんで」
「OK」
僕は右手でOKマークを作ると、JRの改札へ向かう三浦キヨミについて行った。
「じゃ、また」
改札の前に着くと、僕は三浦キヨミに対して言葉をかける。
しかし、三浦キヨミは改札を通り抜けようとはせず、憂いを含んだ目で僕を見続けていた。
「どうしたの?」
僕は首をかしげ、三浦キヨミに対して訊く。
「あの、有岡さん……」
三浦キヨミは切り出しの言葉を述べると、ゆっくりと僕に身体を向けた。
何かを告げようとしている。
力強く僕を見つめる三浦キヨミの双眸は、そう物語っているように僕には思えた。
「あの、有岡さん。
ひょっとしてマコトさんの事、まだ気になったりしてますか……?」
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