●恋心

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三浦キヨミが連れていってくれたラーメン屋は、今、新たなスタンダードとなりつつある「泡系」のラーメンであった。 トロトロに煮込んだ鶏ガラスープをブレンダーで泡立て、スープパスタのように出されたそのラーメンは、醤油やトンコツに慣れ親しんだ僕には個性的としか表現出来ず、「旨い」「マズイ」という判断より戸惑いが先に出た。 「美味しいでしょ?」 が、カウンター席でラーメンをすすっている三浦キヨミは、至福の表情を浮かばせながら僕に訊いてくる。 「うん、美味しい」 未知なるその味に僕は未だ戸惑いを抱いていたものの、三浦キヨミのその表情を前に「分からない」とはとても言えず、やむ無く迎合するように「美味しい」と答えた。 ラーメン屋を後にし、左手に巻いたG-SHOCKで時刻を確認すると、10時を回っていた。 「また、米倉翔吾のライブがあったら、優先的にアタシを誘ってもらっていいですか?」 券売機で切符を購入した後、三浦キヨミは振り返り、愛嬌たっぷりの声色でもって言う。 「今日のライブで、米倉翔吾の事が凄く好きになりました。 曲も気になったのをスマホにダウンロードするだけで、CDとか持ってなかったんですけど、今日のライブをキッカケに徐々に集めてみようと思います」 「良かったら、CD貸そうか? 俺、米倉翔吾の曲は全部iPodに取り込んでるし、別にCD貸してもいいよ」 「あっ、じゃあまた根本さんの飲み会に参加した時にでも貸してください。 白石さんに根本さんの飲み会、『また来てよ』って誘われてるんで」 「OK」 僕は右手でOKマークを作ると、JRの改札へ向かう三浦キヨミについて行った。 「じゃ、また」 改札の前に着くと、僕は三浦キヨミに対して言葉をかける。 しかし、三浦キヨミは改札を通り抜けようとはせず、憂いを含んだ目で僕を見続けていた。 「どうしたの?」 僕は首をかしげ、三浦キヨミに対して訊く。 「あの、有岡さん……」 三浦キヨミは切り出しの言葉を述べると、ゆっくりと僕に身体を向けた。 何かを告げようとしている。 力強く僕を見つめる三浦キヨミの双眸(そうぼう)は、そう物語っているように僕には思えた。 「あの、有岡さん。 ひょっとしてマコトさんの事、まだ気になったりしてますか……?」
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