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「……まぁ、それなりにね」
またも、三浦キヨミの口から出てきたマコトの名前に、僕はラーメンを食べた時とは違う戸惑いを抱いた。
「その気になるのって、友達としてですか?」
三浦キヨミは、真っ直ぐに僕を見つめながら質問は続ける。
「そうだね」と、僕は答える。
「今は距離を置かれているけど、マコトとは普通の友達とは違う感じで心が通ってたって感じがしたからね。
もし、マコトが男ならどれだけいいか、って今でも思ってるよ」
「大切な人なんですね、有岡さんにとってマコトさんって」
三浦キヨミは淡々と述べると、いびつに口元を曲げた。
「そうだね。
だから、彼女が出来るとマコトの存在は誤解されるかもだけどね」
僕はごまかすように苦笑すると、ズルズルと続きそうなこの会話を切り上げるサインとして、左手に巻いているG-SHOCKに目をやった。
「三浦さん、もう10時半回ってるよ。
そろそろ帰らなきゃ、さすがにマズイんじゃないの」
「……ですね」
三浦キヨミは名残惜しそうに言うと、ゆっくりと踵を返した。
「あの、次からアタシの事、『三浦さん』じゃなくて、もうキヨミでいいですよ。
白石さんとか、皆、そう呼んでますから」
しかし、三浦キヨミは振り返ると、どこか挑むような口調で言葉を付け加えた。
「分かった、じゃ」
僕はキヨミと名前を呼ばず、別れの言葉のみを述べると、手を振った。
その僕の対応に、キヨミはふぅとため息めいた吐息を洩らすと、形だけといった感じで頭を下げ、改札を通り抜けていった。
──分かりやすい子だな。
僕は思う。
そして、ここ最近の白石が何か含みのあるような事を言っていた理由が、先程の三浦キヨミの態度で何となくだが理解出来た。
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