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「あっ、森、ビンゴ。
温泉一緒に行った子は、マコトだよ」
森の質問に、広田は得意げな顔つきで答えた。
以前、僕はマコトに「いつか、温泉にでも行こうぜ」と、話した事がある。
その温泉に、マコトは彼氏である広田と行ったというのか。
「マコト、意外にも温泉が初めてらしくてよ……」
広田は、へへ、と笑うと、言葉を続けていく。
「だから、風呂から帰ってきた時はキャッキャッ言ってたぜ。
『何、あれ。凄い!』ってよ。
つーか、スーパー銭湯に毛が生えたような温泉だから、そこまで驚く程でもねえんだけどな。
だから、今度レンタカーでも借りて、ちゃんとした温泉宿に泊まりで行こうかな、って思ってんだよ」
「お前、金あんなぁ。
泊まりで温泉行くとか、結構バイト頑張らねえと無理だろ」
広田の言葉に、森が感嘆の言葉を述べる。
「俺が金とか、持ってる訳ねえだろ」
その森の言葉に対し、広田は淀みない口調で返すと、グラスに入っていたビールを一息に飲み干した。
「金、出すのはマコトだよ。
アイツが温泉行きたい、って言ってんのに何で俺が金出さなきゃいけねえんだよ。
マコト、お金なら私持ってるから行こ、って言ってるから、旅費は全部アイツに出させるよ」
「えっ、待ってください。
広田さん、彼女と温泉行くのにお金一円も出さないつもりなんですか……?」
ここで、キヨミが白石らとの女の子同士の会話をやめると、斜め向かいにいる広田に尋ねる。
「そうだよ」
広田は再び淀みなく返答すると、手酌で自身のグラスにビールを注いだ。
「えっ、ちょっと広田さん。
アタシ的にそれ、あり得ないんですけど……」
平然とした態度を崩さない広田に、キヨミは露骨に顔をしかめる。
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