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「マコト、俺と静岡に行った時もホテル代をあわよくば全部出そうって勢いだったしよ。
アイツが何やってるかは、俺もよく分かんねえんだ。
そう言ってるわりには、自分の事を引きこもりって言ったりとか、マコトのプライベートについてはホント、謎に包まれてるんだよ」
「アイツの家、実は大富豪だったりしてな」
広田が笑って返答したその時、カーゴパンツに入れていた僕のスマートフォンがブルブルと震え、何かしらの通知を告げた。
僕はカーゴパンツのポケットからスマートフォンを取り出すと、通知の正体が何なのか確認をする。
僕はスマートフォンを握りしめたまま、言葉を発する事が出来なくなった。
……なんで?
僕はこう口走りそうになったが、目の前の広田の手前、唇を固く閉じる事で、言葉が洩れるのを防ぐ。
「おい、どうしたんだよ?」
が、さすがに僕の様子を不審に思ったのか、広田が首をかしげながら訊いてきた。
「あぁ、ちょっとな……」
ごまかすように僕は言うと、人差し指をスマートフォンの液晶画面にあて、掛かってきた電話を取ろうとした。
しかし、電話はタイミングよくそこで切れた。
僕はふぅ、と安堵の息をつくと、カーゴパンツにスマートフォンを入れる。
「電話、かけ直さなくていいのか?」
広田が、僕に訊く。
「あぁ、いいよ別に。
まだ忘年会の真っ最中だし、明日にでもかけ直すよ」
言葉を返した僕は、広田と共にカラオケボックスへと歩を進めていった。
──経緯はどうあれ、広田と付き合い始めたってのに、なんでアイツは彼氏の広田じゃなく俺に電話を掛けてきたんだ?
一言二言、広田と適当に言葉を交わしながら、僕は脳内で考えを巡らせていく。
しかし、この場では答えは出なかった。
そして、マコトのその動機を僕が理解出来るのは、年月を重ね、僕が十分な大人になってからであった。
「不在着信 マコト」
僕のスマートフォンの液晶画面には、マコトからの着信をしめす文言が、忘年会のカラオケが終わるまでずっと記されたままでいた。
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