【第二部】 ──大人──

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11時を過ぎた辺りで、僕らは店を後にした。 前述した通り、マコトは店員然とした態度を終始取り続け、僕にかつての友人に接するような特別な行動や会話は一切行わなかった。 「今日はお前らと久々に会えて楽しかったよ! また、連絡するわ!」 松川駅で電車に乗り、ターミナル駅へと着くと、信也ははつらつとした語調で別れの言葉を僕らに告げた。 その後、森と田渕とも別れると、僕は帰りの電車の中でかつての仲間との再会よりも、不意に出会ったマコトの事をただ想った。 マコトは、松川に帰ってきていた。 逮捕後のマコトが、どういう人生を歩んだのかは分からない。 が、今日の邂逅(かいこう)でマコトが松川の「大吉」という店で働いている、という事が明白となった。 何故、マコトは僕が店に入ってきた時、かつての友人として言葉をかけてこなかったのか。 逮捕という現実が、マコトに二の足を踏ませたのか。 それとも、何かしら僕と会話する事が出来ない、複雑な事情があるのか。 その辺りの深い事情は僕には分かりかねるが、それもマコト本人の口から聞ける可能性が出てきた、という事実は僕の胸を激しく高鳴らせた。 マコトと離れて、10年近く。 援デリの事、当時彼女が根本的に抱えていた悩みなど、訊きたい事は山程ある。 そして、僕は当時尽きる事のなかったマコトとのあの会話のラリーを激しく欲していたのだ。 ──明日、仕事が終わったらちょっとマコトの店に顔を出してみるか。 僕は思うと、電車を降りる。 そして、自宅までの帰り道を徒歩で進んでいると、聴いていたiPodが僕の心を反映するかのように、とある曲をシャッフル再生した。 米倉翔吾「ドリームファクトリー」 今や、全世代にその名を知られている米倉翔吾の代表曲の一つであった。 ──そういや、初めての米倉翔吾のライブでこの曲を聴いた時、マコトは子供のようにはしゃいでいたな。 歩きながら僕はつい思い出し笑いを浮かばせると、未だ自宅のCDラックに眠ったままでいる「こめ」のCDの事を思いながら、マンションのエレベーターへと乗り込んだ。
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