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よく、この辺りで飲んでいるのか。
僕を伴って駅ビルを出たキヨミは、慣れた足取りでスイスイとビルの間の路地を突き進んでいった。
ビルの間の路地には、雑然とした居酒屋が幾つか軒を連ねていた。
立地のせいもあるのか、路地内で軒を連ねる居酒屋の殆どはほの暗い雰囲気であり、そのほの暗い店内ではくたびれたサラリーマンが自虐的な笑い声を上げながら会話を繰り広げていた。
「2人」
キヨミはその内の1軒に入り、店員にピースサインをしめすと、我が家のように勝手知ったる様子で2階へと続く階段を上っていく。
「お疲れさまでしたぁ」
案内された、2階のこじんまりとしたテーブル席に座ると、キヨミはにこやかに笑いながら言い、僕におしぼりを手渡した。
「ココ、ピザが美味しいの。
取り敢えず、それは頼むつもりなんだけど、タクヤくん他に何か食べたいモノある?」
「いや、適当に頼んじゃってよ。
さすがにチャーハンとか頼まれたらキレるけど、軽いアテがあれば俺はそれを食べながらビールを飲むからさ」
「OK」
了承の合図としてキヨミは片目をつむると、早速通りがかった店員をつかまえ、互いの飲み物とピザに加えてエイヒレを注文した。
「じゃ、彼氏彼女いない2人として、改めてカンパーイ」
そして、飲み物が僕ら2人の前に置かれると、キヨミは珍しくはしゃいだ様子で乾杯の音頭を取った。
「酔ってんだろ、お前」
僕は笑うと、ひとまずキヨミのハイテンションを肴としながらビールを一口飲んだ。
「あー、お前とか男の人に言われたの、久しぶり。
何だろ、この感じ。
タクヤくんに言われた、ってのもあるんだけど、凄く懐かしい感じがする」
キヨミは笑うと、梅酒のソーダ割りを一気飲みし、追加を注文した。
「悪酔いすんぞ、いくら明日が休みだっていってもよ」
キヨミの飲み方は、1軒目よりもハイペースであった。
「大丈夫、アタシ結構強い方だから。
あと、お金ならアタシが払うから、その辺も心配しないで」
キヨミはこう言うが、呂律が回ってきていないトコロから、酔っているのは明らかであった。
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