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「彼氏と別れた事が、そんなつらかったのか?」
店員からピザを受け取ると、僕はそれとなくキヨミに尋ねた。
「いや、つらかったっていうか……」
キヨミは長いため息を吐くと、充血した目をゆっくりと僕に向けた。
「タクヤくん……。
アタシと付き合ってた時、結構イライラしてた?」
「どうしたってんだよ」
キヨミの質問の意図が分からない僕は、ごまかすように笑う事しか出来なかった。
「あのね……」
キヨミは梅酒のソーダ割りを一口飲む事で気を落ち着かせると、さっきまでのハイテンションが嘘であるかのように沈痛な口調で語っていった。
「別れるって流れになった時、アタシ。
彼氏に、逆ギレみたいな感じでこんな事言われたの。
『お前といたら、疲れるんだよ!
お前、いつも何やっても自分が正しいと思ってんだろ!』
って。
あのね、この間まで付き合ってた彼氏、年下でさ。
で、天然で何か頼りないトコロがあるから、アタシ。
この子をどうにか一人前にしたい、って思って、結構口うるさく色々言ってきたのね。
そうじゃないとか、違うでしょとか。
だって、お箸もちゃんと持てない子だったんだよ、その子。
そんで、不意に訳分かんない事をズバッと言って人を怒らせたりするトコあるし、そういうトコを毎日見てたら、アタシがしっかりしてこの子をどうにかしなきゃ、って思っちゃうじゃない。
そしたら、アタシが口うるさく言ってたのに、我慢が出来なくなったんだろね。
今年の夏くらいに、『お前、男のプライドも考えろよ!』って言われて、その後に実は今、同じ部署で働いてる年下の子と付き合ってるって言われて……。
アタシ、その子と5年近く付き合ってきたんだけどなぁ。
会社に入ってきた時から、可愛い子だな、って思ってて、あの子もアタシの事を『キレイっすね』とか本当かどうか分かんない事言って、そんで付き合った訳なんだけど、その結果がアレとか……。
何だろ、あの終わり方。
いや、確かに怪しいかな、って思うトコロは今から考えたらあったんだけど、でも裏で彼女作って逆ギレって、何か裏切られた気分」
ここまで言った後、キヨミは言葉を切った。
込み上げて来ているモノがあるのか。
さすがに落涙こそしなかったものの、キヨミは深いため息を吐いた後、ボンヤリといった様子で虚空を見つめ、人差し指でテーブルをトントンと叩いていた。
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