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「5年は長いな……」
2分程の沈黙の後、僕はこの重苦しい雰囲気で最も適していると思われる言葉を吐いた。
「でしょ」
キヨミは手短に述べると、組んだ両手の上に顎を載せ、再びため息を吐く。
「でも、その彼氏さんの気持ちも何となく分かるかなぁ……」
そして、僕は向かいのキヨミに視線をやると、碁石を置くようにそっと言葉を場に置いた。
「それは、同じ男として?」
キヨミは組んだ両手から顎を離すと、僕と視線を交錯させる。
「うん、まぁ……」
インターバルとして、僕は言葉を濁した後、沈痛しきっているキヨミを慮りながら自分の考えを述べていった。
「俺はあの……。
昔のキヨミしか知らないけど、キヨミは昔から自分が正しいって思いすぎるトコロがあったからさ。
多分、その思いが強すぎて彼氏さんのプライドをズタズタに傷つけていったんだろね。
あくまで話を聞いただけだから、憶測でしか言えないけど、多分その彼氏さん。
あまり自己主張するタイプじゃなく、キヨミの言う事をハイハイって聞いていたんじゃないかな?
で、キヨミ的にはそれが当然の形になってて、彼氏さんも受け入れてたつもりだったけど、実は彼氏さんにはストレスになっていた。
その溜まったストレスの結果、爆発した彼氏さんは他の女の子と付き合う事でキヨミを見返してやろうと思ったのかもな。
俺は、お前がいなきゃ何も出来ない奴じゃない。
こうやって他の女とも付き合える事が出来るんだよ、ってな感じで」
「あぁ、もう。
タクヤくんの言ってる事が当たってたらその子、バカとしか言いようがないね」
キヨミは、呆れた様子でかぶりを振った。
「その子、ホントに何も出来ない子だったからね。
一回、お母さんと偶然会って話した事があるけど、凄い感じの良さそうな人で、あぁ甘やかされて育ってきたんだな、って思って……。
別にアタシを見返すつもりならそれでいいけど、そんな理由で別の女の子と付き合いだしたとしたら、その子が可哀想。
アタシが付き合ってた時の苦労を、今度はその子が味わう事になるんだしさ」
──世の中には相性もあるし、それは一概には言えないよ。
僕はこうキヨミに言いたかったが、今のキヨミにそれを受け入れる精神的余裕があるとは思えなかった為、何も返答をせずおし黙り、ピザをアテにビールを飲んだ。
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