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「……ゴメン」
僕は、キヨミに対してただ謝る事しか出来なかった。
キヨミの落涙は、明らかに僕の身勝手がもたらした落涙であったからだ。
「いいよ。別に」
キヨミはごまかすように笑うと、言葉を続ける。
「こればっかりは、もうそういう巡り合わせって思うしかないからね。
このタイミングで、タクヤくんが偶然マコトさんと出会ったのも、そういう運命だったって事だよ。
アタシとタクヤくんは付き合えません、って神様が言っているっていうか……」
僕は、何も言葉を返す事が出来なかった。
「取り敢えず、話がそれだけなら電話切るね。
もう、大体の話は分かったから。
マコトさんとの結果がどうなったかとか、そういう報告も一切いらないから。じゃあ」
早口でキヨミは言うと、せわしなく電話を切った。
僕はスマートフォンをバッグに入れ、背中を預けていた電信柱から離れると、松川駅に向かって歩を進めていく。
器用か不器用か、と問われれば、僕は不器用な生き方をしているのかもしれない。
マコトと付き合える見込みがあるのならともかく、僕とマコトが付き合う可能性は全くの未知数としか言い様がないのだ。
大多数の男は、キヨミの存在を保険としたまま、マコトへの交際を切り出し、OKならそのままマコトと。
ダメならキヨミと、という感じで、マコトとの事は確実にキヨミには言わないだろう。
が、キヨミの言う通りそんな器用な人間ではない僕には、先程のようなやり方しか出来なかったのだ。
もし、マコトと付き合えなければ、僕もそういう運命であったという事だ。
マコトともキヨミとも付き合えず、僕は間抜けに一人で生きていけばいい話なのだ。
「バカかな……、俺」
歓楽街の騒音にまぎれて、僕はポツリと独り言を吐く。
そして、松川駅の改札をくぐると、一人茫乎といった状態で帰りの電車の到着をホームで待った。
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