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──なんで、あんな写真を撮られるのを嫌がったんだろ。
「殺す」という単語まで用いたマコトの過剰とも言えるあの拒否は、僕の中にしこりをもたらしていた。
何か「写真を撮られたくない理由」が、マコトの中に存在しているのだろうか。
僕は思考を重ねるが、未だマコトの事を殆ど知り得ていない僕にとってそれはただ空しい行為であり、重ねた思考はハムスターの遊具のごとく空回りをするのみであった。
しかし、今日マコトと行動を共にした事によって、一つの事が分かった。
それは、マコトの方も僕と同じく、「男女の関係」ではなく「友達としての関係」を相手に求めていた事だ。
──確かにマコトの言う通り、俺の事をちょっとでも気にしていたら、あんなTシャツにデニムって格好じゃなく、それなりに女の子らしい格好で来るよな。
今日のマコトの様を思い返し苦笑した僕は、ホームに滑り込んできた電車へと乗る。
「マコト、誰か好きな奴でもいるのかな……」
電車の中だというのに、僕は思わず独りごちた。
僕がマコトと「友人関係」を続けたいのは、理由がある。
白石琴音という存在が、僕の中で他の恋愛感情を受け付けさせない程、大きく膨らんでいたからだ。
並の男なら、白石の事は憧憬としてすぐさま諦め、マコトのような現実的に付き合えそうな女の子に切り替えているだろう。
しかし、幼少時代からその性格を知る彼氏の根本信也と白石のミスマッチから、僕は白石がフリーになる事をどこか心の中で待っていたのだ。
もしかしたら、マコトが僕と「友達としての関係」を求めているのは、僕のように誰か気になる人が心の中にいるかもしれない。
僕は思う。
そして、この仮説に僕はどこかの眼鏡をかけた少年探偵のように、心が高ぶっていった。
──まっ、その辺りは次に会った時にマコトから訊くか、夏フェスに行った時にでも訊けばいいか。
僕は思うと、お預けを食らった格好であるマコトのもたらしたミステリーの答えを夢想しながら、車窓に写し出され流れていく風景をただ眺めていた。
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