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「俺だって、今回の夏フェスに対しては真剣に臨んでるよ。
だから、こうやって段取りとか決めたんだろ。
それに、昨日も俺、言ったじゃねえかよ。
夏フェスを主催するバンドも、俺的には気になってる存在だって」
「なら、いいけどね」
僕の言葉にマコトは、フフフと微笑した。
「チケット、当たるといいね」
そして、その微笑を交えたまま、マコトは言葉を続ける。
「ホント、それ願ってる」
マコトに釣られ、僕も微笑を送話口に洩らす。
その時であった。
どこか動揺を抱かせる、マコトの激しい息遣いが僕の耳に聞こえてきた。
スマートフォンを右へ左へとやっているのか、途切れた言葉の代わりとして聞こえてくる風切り音。
「ごめん、タクヤ!」
その風切り音の後、マコトは激しい息遣いを覆い隠すような快活な声をスマートフォンに送り込んできた。
「ちょっと、待ち合わせしてる人が来ちゃってさ!
もう、電話切るね! ゴメン!」
慌ただしくマコトは続けて述べると、電話はシャッターが落とされたように唐突に切れた。
「……どうしたってんだろ」
マコトの慌てぶりが気になった僕は、思わず独りごちた。
しかし、気になっても今の僕にはどうする事も出来ない。
マコトが僕にもたらしている「ミステリー」は、こんな事以外にも多々存在しているし、判断材料を殆ど持ち合わせていない今の僕には、何一つ想像する事は出来やしないのだ。
「基本ニート、とか言ってるクセに『待ち合わせ』とか、ホント意味分かんねぇ」
電話の切れたスマートフォンの液晶画面を凝視しながら、僕は再度独りごちると、コンビニの袋に入っていた二つ目のおにぎりを取り出す。
そして、スマートフォンで時刻を確認すると、僕は残り少ない休憩時間で食事を終える為、その鮭味のおにぎりをせわしなく頬張った。
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