●罪とビーナス

9/10
前へ
/416ページ
次へ
「そうだけど」 僕は水道の栓を止めると、広田に目を向け、素っ気なく答えた。 「何か、えらく驚いた様子で10万がどうとか、ブツブツ呟いてたじゃねえーかよ。 マコトちゃんから、友達やめたい、って言われて、10万請求されたのか?」 「違うよ」 僕は先程の口調を保ったまま言うと、夏フェスに行く話とそこでのホテル代が10万円かかる、という話を広田に対して説明した。 「10万とか、また高いホテルに泊まるんだな。 そんで、同じ部屋に泊まるとか、お前らやっぱ付き合ってんじゃねえのか?」 「いや、それは無い」 キッチンにかけてあるタオルで手を拭きながら、僕は広田の質問に答える。 「マコトも、俺と付き合う事に関してはどこか壁があるしよ。 この間も合コンの事を切り出したついでに、彼氏がいるかどうか尋ねたら、 『もしかして私と付き合いたいの?』 って、キレ気味で言われたくらいだし」 「でも、お前ら。 静岡に、二人で一泊してくるんだろ?」 「まぁ、そうだけど……」 「ならよ、有岡。 お前マコトちゃん押し倒して、一発ヤってこいよ。 マコトちゃんも、もしかしたらそれを望んでるかもしんねえぞ」 「いや、待てや広田。 そんな事、出来る訳ねえだろが」 無神経な広田の発言に、さすがに僕は声を荒げた。 「けど、そのダブルベッドのホテルの部屋を探しだしたのは、マコトちゃんだろ。 で、お前の返事も聞かず、真っ先に部屋を予約したり、金まで貸すから一緒に行こうとか、マコトちゃんは言ってきてると」 「……まぁ、そうだけどよ」 眉を寄せながら僕は言葉を返すと、リビングに行き、フローリングに置きっぱなしにしていたショルダーバッグを肩にかける。
/416ページ

最初のコメントを投稿しよう!

618人が本棚に入れています
本棚に追加