●Season Train

2/5

616人が本棚に入れています
本棚に追加
/416ページ
新幹線の発車時刻の2分前に、マコトは帰って来た。 「ゴメン、何か微妙に行列並んでてさ。 帰ってくるの、大変だった」 ハァハァ、と息を切らしながらマコトは言うと、僕がリュックサックを置く事でキープしておいた席に子供のようにはしゃぎながら座った。 同時に、新幹線が動きだす。 マコトは自身のリュックサックを吊棚に置くと、買ってきた弁当をレジ袋から取り出し、箸を割る。 「……うなぎ弁当、ですか?」 朝から食欲旺盛なマコトを見て、僕は胃酸が込み上げるのを抑えながら、訊いた。 「だって、静岡行くんだもん。 気分だけでも、静岡って感じにしたいじゃん。 行列の長さが、間に合うかどうか微妙な感じだったから並ぶの迷ったんだけど、予想以上に美味しそうなお弁当だからやっぱ並んで良かった」 「夏フェスに会場に着いたら、マコト。 気分悪くなって、リバースするかもしんねえな。 暑い、そんで気持ち悪いって言って」 「リバース?」 「ゲボだよ、ゲボ。戻すこと」 マコトの様に僕は苦笑すると、マコトに続く形で朝食であるカツサンドを口に入れた。 「タクヤ、うなぎ弁当一口いる? 結構、美味しいよ?」 マコトが箸でご飯とうなぎを持ち上げながら、訊く。 そのマコトの好意に、僕は「いらない」と返すと、溶けるように流れていく新幹線からの車窓の眺めを見ながら、カツサンドを食べていった。 「……さて、デザート」 うなぎ弁当を食べきったマコトは、同じレジ袋から今度は銀色シートに包まれた何かを取り出した。 「デザートのチーズケーキ」 銀色シートを剥がし、オレンジ色のパッケージから一口サイズのチーズケーキを取り出すと、マコトはそれを至福の笑みを浮かばせながら食べた。
/416ページ

最初のコメントを投稿しよう!

616人が本棚に入れています
本棚に追加