●Season Train

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──どうしたの? 僕は、こうマコトに訊きたかったが、訊く事が出来なかった。 マコトのその表情から、僕のような第三者が簡単に触れてはいけない案件だと思ったからだ。 そしてそれは、マコトが僕にもたらしている、あらゆる「ミステリー」の根源の一つではないかという予感もあったのだが、僕には踏み込んでマコトに訊く勇気はなかった。 マコトは一切の喜怒哀楽を表情から消すと、極めて事務的といった様子でLINEを返信する。 そして、ふぅ、と小さなため息を一つ吐くと、マコトは先程の陽気な様子が嘘であるかのように、口を「へ」の字にしたまま黙り込んでしまった。 しかし、そのマコトの苛立ちを煽るように、マコトの膝の上に置かれたスマートフォンは身震いと着信音でもってLINEの通知を告げる。 「しつこいなぁ……」 マコトは再び舌打ちをすると、眉を寄せながらLINEを返信し、自身のメッセージに既読がついたのを確認すると、スマートフォンの電源を切った。 そして、スマートフォンをPORTERのバッグに放り込むと、マコトは自分に言い聞かせるように 「フェス、楽しもうっと」 と、ポツリと独り言を吐いた。 「そうだね……」 僕は、マコトのその独り言を拾い上げ、場当たり的な言葉を吐く。 というより、今の僕にはこの言葉以上に適当な言葉を見つける事が出来なかった。 「ゴメン、何か変な空気にさせちゃってさ」 マコトは視線だけをコチラに向けると、乾いた声で謝罪をする。 「いや、いいよ。別に」 「面倒くさい奴がいんのよ。 この三連休は夏フェスに行くから、って私、ちゃんと言ってるのに『そんなこと、俺は知らない』とか、訳分かんない事を言ってくる奴」 一人称が「俺」という辺りから、LINEの相手は男か、と思ったが、僕はあえてそこは掘り下げなかった。 「まっ、楽しい話をしようよ。 せっかく、これから米倉さんに会いに夏フェスに行くんだからさ」 マコトは言うと、錆び付いたレバーで線路のポイントを切り替えるかのごとく、無理繰り明るく努めながら僕と会話を繰り広げていく。 しかし、そのマコトの過剰なまでの明るさの裏に、先程彼女が見せた冷ややかな闇が潜んでいるかと思うと、僕はなかなか会話に集中する事が出来なかった。
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