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新幹線を降りホームへと出ると、客室での冷房を浴びる事によって忘れていた真夏の暑さが、即座に僕ら二人を襲った。
「静岡、暑すぎやしない?
ってか、こんな環境でライブやるとか、あり得ないんですけど」
階段を降り、改札へと向かう最中、マコトがもう既にへばった様子で僕に対して言う。
「こまめな水分補給はした方がいい、ってTwitterとかブログで書いてた人が結構いたよ。
あと、塩飴で塩分補給とかさ。
つーか、このフェス。
結構、猛暑の中でやるから、毎年熱中症で何人か倒れてんだと」
「うわぁ、申し訳ないけど、興味の無いゲストが出た時は、ちょっと休ませてもらおうっと」
改札をくぐり、掛川駅のコンコースへと出ると、さすがに万単位の人を集める夏フェスであるからか、コンコースは黒山の人だかりが出来ていた。
「フェスに参加の方は、こちらがシャトルバスの最後尾となっておりまーす!」
夏フェスのスタッフが掛川駅にも出て来ているらしく、今回の夏フェスのアイコンが描かれたTシャツを着た男性が「つま恋シャトルバス・最後尾」と書かれたプラカードを手に持ちながら、コンコースで声を上げている。
「凄い、人だよね……。
これ、みんな夏フェスに行く人?」
汗による臭気と、大量の人間が熱源となって発せられる熱気に、夏フェス初参加の僕らは早くも圧倒される。
「取り敢えず、並ぼう」
コンコースでまごついたままでいると、夏フェス会場である「つま恋」にたどり着けないと思った僕はマコトを引き連れ、人波をかき分けて、スタッフの男性が指示している行列の最後尾へと移動した。
しかし、この行列が遅々として進まない。
以前、ニュースで見た事がある、政治家の「牛歩戦術」でも再現しているのか、数歩歩けばストップ。
数歩歩けばストップ、といった状態が、コンコースを出て掛川駅の外周を歩く間、10数分程続いた。
その上、このシャトルバスに乗り込む行列はかなりの長蛇の行列であるようで、スタッフは駅コンコースでの混雑を少しでも緩和させる為、行列を裏のロータリーへと誘導していた。
「タクシー、乗れば良かったかな……」
裏のロータリーに向かう地下道を歩いている時、マコトはリュックサックから取り出したペットボトルを飲みながら言った。
「どうだろね。
タクシー乗り場も、結構行列並んでたし、もうどっちがいいとかあまり関係ないんじゃないかな?」
刻むように裏のロータリーを小まめに歩き、線路下に設けられたトンネルで再び表のロータリーへと戻ると、ようやく行列の先頭がシャトルバスに乗り込む光景が僕らの目に飛び込んできた。
どうやら、やって来るシャトルバスは二種類のタイプがあるようで、僕ら二人は立ったままの乗車を余儀なくされる路線バスより、ゆったりとしたシートに座れる観光バスがシャトルバスとしてやって来る事を、小刻みに歩を進めながら期待した。
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