●20××年、夏、掛川

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行列について行き、施設としての「つま恋」の入口である南ゲートを抜けると、その先にあったのはリストバンド交換所であった。 「3日券をお持ちの方は、右の列へ! 当日券をお持ちの方は、コチラへお並び下さいー!」 夏フェスのスタッフが、けたたましい声を上げ、「つま恋」という施設に入場した夏フェス参加者を左右に分けていく。 このフェスに、前日祭と一日目しか参加しない僕とマコトは、必然的に左の行列へと並び、チケットをオレンジ色のリストバンドに交換をした。 「こういうのをつけてもらうと、フェスに来たって感じがするよね」 リストバンド交換所を後にすると、マコトがスタッフにつけてもらったリストバンドを僕に見せながら言う。 「確かに」 そのマコトの言葉に僕もリストバンドを見せ返しながら微笑すると、フェスが行われる多目的広場まで多くの参加者についていく形で歩を進めていった。 「フェスに参加される方は、リストバンドをつけている腕を高々と上げて下さーい!」 多目的広場に入る前のゲートで、参加者全員が漫画「ワンピース」の名シーンのごとく腕を高く上げ、リストバンドのチェックが行われると、僕らはようやくフェスのステージを目にした。 左右に、広々と伸びきったステージ。 カラフルにステージを彩る、バック。 真ん中にでかでかと掲げられた、今回のフェスのアイコン。 開演の30分前だからか、砂かぶりとも言えるステージ最前の広場は既に人で埋め尽くされており、僕らはやむ無く「ゆったりゾーン」と指定されたステージ後方の広場に腰を降ろした。 「明日は米倉さんが一人で出るから、早めにホテルを出て、いいスペースを確保した方が良さげかな」 演者を見るには双眼鏡を必要とする程、遠いステージを見つめながら、マコトが小さくため息をつく。 「どうだろ。 変に前の方を陣取って、そこから動かなくなると、フェスでは『地蔵』とか言われて嫌われるらしいよ。 だから、米倉さんを間近で見たい、って思うのなら、ゲストが入れ替わる寸前で前の方に行った方がいいと思う。 でも、あの感じじゃ、前の方に行ったら、フラフラになりそうだな」 「じゃ、後ろでゆったり見るのもありかな」 マコトは言うが、その口調はどこか名残惜しそうだった。
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