●20××年、夏、掛川

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「俺はどっちでもいいよ。 マコトが間近で米倉さんを見たい、って言うのなら、前の方で見てもさ。 つーか、マコトの性格上、間近で米倉さんを見たいんだろ。 だったら、前の方に行こうぜ。 米倉さんの出番が終われば、後ろに戻ってまったりすればいいじゃん」 「じゃ、明日はそうする。 今日はソロじゃなく、菅さんとのユニットだから、別に後ろでもいいけど」 マコトはその表情に明るさを取り戻すと、リュックサックからレジャーシートを取り出し、それを広げていった。 「百均のレジャーシートって、しょぼいよね。 やっぱ、変にケチるんじゃなく、せめて三百均でレジャーシートを買えばよかった」 「いや、逆にこれくらいの大きさの方がいいんじゃないかな。 いくら、『ゆったりゾーン』っていっても、あんまりスペース取ると周りから白い目で見られると思う」 僕もマコトに続く形で、リュックサックから百均で購入したレジャーシートを取り出すと、それをマコトのレジャーシートの隣で広げていく。 「タクヤ、お昼どうする? フェス飯とか食べたいけど、米倉さんと菅さん、トップバッターでしょ。 だから、今から買いに行けないし、 変に休憩時間とかにフードエリアに行ったらお店、すんごい並んでそうだから、やっぱ興味の無いゲストが出てる時にお店に行った方がいいのかな」 「その方がいいのかな……。 どっちにしろ俺ら、米倉さん以外はそんな興味ないから、米倉さんと菅さんの出番が終わったら、そのままフードエリアに行くのもアリだと思う」 「タクヤ、これ美味しそうじゃない? この、肉にチーズがかかってるヤツ。 私、お昼これ食べたい」 リストバンド交換所でもらった夏フェスのパンフレットを僕に見せながら、マコトが言う。 「朝、新幹線であんな食ったのに、よくそんなガッツリしたの食えんな……」 とどまる事を知らないマコトの食欲に僕は苦笑すると、マコトと共にフードエリアや物品エリアでの気になるお店をパンフレットでチェックしながら、「前日祭」という名の夏フェス初日の開演を待った。
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