●20××年、夏、掛川

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開演の10分前。 今回の夏フェスの主催者側の人間なのか、八木と名乗る男がフェスTに短パンという軽装で登壇すると、このフェスにおける注意事項をいくつか挙げていった。 この夏フェスは、環境に配慮したフェスです。 猛暑の中でのフェスなので、水分補給等はしっかりと。 終演後、規制退場が行われるので、その旨を守って欲しい。 以上の事を述べ終わると、八木は 「間もなくの開演となります! 前日祭ではありますが、今日一日このフェスを心ゆくまで楽しんでいってください!」 と締めくくり、ステージから去っていった。 「いよいよだね」 八木に送った観客の拍手がまばらとなり、フェスの始まりが近付くと、気分が高揚してきたのかマコトが目尻を下げながら僕に言った。 「だよな。しかも、トップバッターだしよ」 マコトと同じく気分が高揚している僕は頷くと、ステージを見つめながら、このフェスの最初のゲストである「米倉×菅」の登場をただ待った。 米倉翔吾と菅賢一は、開演の時刻から5分遅れで登壇した。 同時に、僕らと同じく米倉翔吾のファンがいるのか、客席からは地鳴りのような大音量の歓声が鳴り響いた。 「米倉さぁーん!」 その観客の歓声に負けじと、テンションMAXのマコトは、自身の存在をアピールするかのように遠く離れた米倉翔吾に対して黄色い声援を放つ。 「初めまして、『米倉×菅』です! 短い間ですが、心行くまで楽しんでいってください!」 米倉翔吾が簡潔に自己紹介をすると、後ろのサポートメンバーが、二人の代表曲である「原色の空」をすぐさま演奏し始めた。 それぞれマイクを持ちながら、ステージの右端と左端でピョンピョンと跳び跳ねるように歌う、米倉翔吾と菅賢一。 その二人の歌いっぷりに、マコトは涙でも流しそうな勢いで黄色い声援を放ち続け、メロディーに沿って両手と頭を過剰なまでに振り続けた。
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