●20××年、夏、掛川

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その後、「米倉×菅」は、 「さらに、サプライズを!」 と言い、今度は打って変わってスローバラードの新曲を。 そして、最後にはこの夏フェスの中心的存在である某国民的バンドのカバー(「youthful days」という曲らしい)を二人で歌うと、米倉翔吾と菅賢一は颯爽とステージから去っていった。 「凄い良かった、サイコー!」 演奏が終わるとマコトは僕に向き直り、目尻に涙を溜めながら歓喜の声を上げた。 「新幹線の中で半分冗談で言ってたのに、まさか本当に新曲をやってくれるとか思わなかった! しかも、二曲も! ねぇ、さっき歌った曲! 配信とかCDとかで、出すのかな!」 「もしかしたら、アルバムでまとめて出したりしてな。 『米倉×菅』で。 つーか、それ。 何かあり得そうだから、ちょっと期待しちまう」 「アルバムとか出たら、絶対買う! 米倉さんがソロで歌うのと違って、二人の曲ってまた雰囲気が違うもん! 米倉さん、凄い楽しそうに歌ってる、って感じだったし!」 「菅さんと一緒に歌う、って思ったら米倉さんの曲作りもまた変わってくるんだろうな。 同じ米倉翔吾が作ってんのに、菅さんと二人で歌う曲は俺的にも新鮮に感じる」 言い終えた僕は、マコトと共に客席である「ゆったりゾーン」を後にし、開演前に言っていた通りフードエリアへと向かった。 「マコトは、何を食いたいんだったっけ?」 考えてる事は皆、一緒のようで、一斉にフードエリアへと向かう観客の行列に混じりながら、僕はマコトに対して訊く。 「ビーフステーキとモッツァレラチーズ、ポテト付き」 「痩せてんのに、よくそんな食えるよな……」 開演前と同じく、無尽蔵とも言えるマコトの食欲に僕は苦笑する。 「多分、食べたら全部ウンコで出てくる体質なんだろね、私。 だから結構食べても、あんまり体重が増えないっていうか」 「女が、ウンコとか口にするなよ……」 無邪気なマコトの様に僕は再び苦笑すると、フードエリアへと続く階段を降り、自分達の目当ての店がどこにあるのか、パンフレットを見ながらマコトと共に探した。
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