●20××年、夏、掛川

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「曇りめがね」がブログで推薦していたRasp berryは、さすがベテランというべきか、円熟味を感じさせるバンドであった。 夕暮れ前の登場という事もあるのか、Rasp berryの歌う曲はしっとりと心に染みる曲が中心であり、特に陽が沈みはじめた頃に歌われた「グッバイサンセット」に至っては、何人かの聴衆が落涙する程であった。 「凄い、聴かせる歌を歌うバンドだったね……」 Rasp berryがステージから去った後、マコトは目を赤くさせたまま、僕に向き直り言った。 「大人なバンド、って感じだったよな。 MCでメンバーの皆が笑ってる時も、何か落ち着いた感じの笑い方だったしよ」 Rasp berryの落ち着いた佇まいは、年月と共に備わった後天的なモノという雰囲気を見るモノに抱かせ、碁石を置くように、 「ありがとうございました」 と淡々と観衆に告げてステージを去っていく様には、僕は今日初めて演奏を聴いたというにも関わらず、名残惜しさすら抱いた程であった。 「しかし、曇りめがねって人。 凄い、事細かにRasp berryの曲を分析してるよね……。 ブログに書いてた通りの雰囲気のバンドだったから、私、ビックリしちゃった」 「それだけ、邦楽を愛してる人なんだろな。 つーか、愛が無いとあそこまで熱いブログは書けないよ」 マコトに言葉を返すと、僕はパンフレットを開く。 「マコト、この後どうする? もう、ゲストが出終わったけど、このまま帰る? それとも、グッズとか雑貨エリアとかちょっと見て回るか。 何か、タワレコがこの会場に来ているらしいしよ」 ライブエリア内は、公演が終了したというのもあり、地元DJがステージ上で規制退場を観客にお願いしていた。 「うーん、ちょっと会場歩いて回ろうかな。 さっきのRasp berryのCDがタワレコで売ってるなら、ちょっと買いたいし。 あと、明日の為にフードエリアで気になる店を実際に歩いてチェックしておきたい」 「じゃあ、そうするか」 僕はパンフレットをマコトに見せると、昼間のフードエリアと同じく気になる店をチェックし、ドコに行くべきかを二人で話し合った。
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