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「この部屋のお風呂、トイレと一緒なんだ……」
ユニットバスのドアを閉めたマコトは、かぶりを振りながら部屋に帰ってきた。
「それが、どうかしたのか?」
「いや、私。
今、猛烈にお腹が痛いんだよね。
多分、今、大きいのをしたら、ちょっとした子供くらいのヤツが出てくると思う。
だって、下っ腹が妊娠してんのかってくらい、とんでもない事になってんだもん」
「食いすぎなんだよ。
だから言ったじゃねえかよ、新幹線でも昼でもあんな食ったのに、夜も会場でバクバク食うんだからよ」
ストレートなマコトの告白に、僕はただ笑った。
「だって、行く店行く店、料理が美味しいんだもん。
そんで、量も少ないからつい追加で買っちゃうっていうか」
「将来、マコト。絶対太ると思う。
今は若いから、食いすぎてもその体型維持出来てるけどよ」
「あー、もう。
喋ってるとお腹限界になってきたから、ちょっとトイレ行ってくるね。
あっ、という訳だから、私が出てきても20分くらいココのお風呂入らないでね。
多分、トイレ終わった後、私の産んだ“子供”がとんでもなく暴れていると思うから」
「心配しなくても、当分の間風呂には入らねえよ」
あまりにも明け透けなマコトの振る舞いに、僕は彼女に対して抱いていた欲情をすっかりと失ってしまった。
「ゴメン、じゃあちょっと行ってくる」
しかめ面で、足をバタつかせながらマコトは言うと、駆け込むようにユニットバスへと入っていった。
同時に、「音姫」代わりの水を流す音が、即座に僕の耳に聞こえてくる。
「……広田。
噂のマコトちゃんは、女子力のカケラもねえぞ」
苦笑しながら僕は独りごちると、床に置いていたリュックサックから文庫本を取り出し、それを読む事で一人になった時間を潰していた。
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