●タクヤ、お酒買ってきてよ

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トイレを終え、ユニットバスから出てきたマコトは、 「アレ、何か本読んでる」 と、僕に向かって訊いてきた。 「終わった?」 僕は文庫本からマコトに視線を移すと、言葉を投げ返す。 「あのユニットバスの中で“私の子供”が今、とんでもなく暴れております」 排泄欲が満たされたからか、マコトは満面の笑みを浮かばせながら言うと 「つーか、何の本読んでんの。エロ本?」 と、重ねて訊いてきた。 「エロ本とか読むかよ。小説だよ、小説」 僕は吹き出しながら、マコトに対して返答した。 「エロ小説?」 「いや、エロから離れろ。 ドストエフスキーだよ、『罪と罰』」 「何、そのドストエフスキーって、技の名前みたいなヤツ」 「ロシアの小説家だよ。 これと『カラマーゾフの兄弟』とか有名なんだけど、ドストエフスキーって名前だけでも聞いた事がねえのかよ」 「うーん、聞いた事がない。ゴメン」 マコトは、肩をすくめた。 「マコトは、小説とか読まねえの? 俺、そこそこ小説読むから、もしマコトが小説読んでんのなら、どんなの読んでるのか聞いてみたい」 「小学校の時、携帯でちょっと読んだくらいだよ。 『お女ヤン』とか『白いジャージ』とかさ」 「それは、逆に俺が聞いた事がねえな……」 マコトの言ったタイトルが、「ケータイ小説」と呼ばれるジャンルだと僕が知ったのは、これより後の話であった。 「ってか、喉渇かない? 多分、あの夏フェスで汗、かきまくったからなんだろね。 キャミとか、塩つきまくってるし、今、猛烈に喉渇いて仕方ないもん」 「下のコンビニで、何か飲み物買ってこようか?」 僕はソファーから立ち上がると、外出をする為、カードキーを手に持つ。
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