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トイレを終え、ユニットバスから出てきたマコトは、
「アレ、何か本読んでる」
と、僕に向かって訊いてきた。
「終わった?」
僕は文庫本からマコトに視線を移すと、言葉を投げ返す。
「あのユニットバスの中で“私の子供”が今、とんでもなく暴れております」
排泄欲が満たされたからか、マコトは満面の笑みを浮かばせながら言うと
「つーか、何の本読んでんの。エロ本?」
と、重ねて訊いてきた。
「エロ本とか読むかよ。小説だよ、小説」
僕は吹き出しながら、マコトに対して返答した。
「エロ小説?」
「いや、エロから離れろ。
ドストエフスキーだよ、『罪と罰』」
「何、そのドストエフスキーって、技の名前みたいなヤツ」
「ロシアの小説家だよ。
これと『カラマーゾフの兄弟』とか有名なんだけど、ドストエフスキーって名前だけでも聞いた事がねえのかよ」
「うーん、聞いた事がない。ゴメン」
マコトは、肩をすくめた。
「マコトは、小説とか読まねえの?
俺、そこそこ小説読むから、もしマコトが小説読んでんのなら、どんなの読んでるのか聞いてみたい」
「小学校の時、携帯でちょっと読んだくらいだよ。
『お女ヤン』とか『白いジャージ』とかさ」
「それは、逆に俺が聞いた事がねえな……」
マコトの言ったタイトルが、「ケータイ小説」と呼ばれるジャンルだと僕が知ったのは、これより後の話であった。
「ってか、喉渇かない?
多分、あの夏フェスで汗、かきまくったからなんだろね。
キャミとか、塩つきまくってるし、今、猛烈に喉渇いて仕方ないもん」
「下のコンビニで、何か飲み物買ってこようか?」
僕はソファーから立ち上がると、外出をする為、カードキーを手に持つ。
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