●Prism

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「静岡でのマコトさんとの旅行は、どうだったの?」 夏フェスから一週間が経ち、迎えた7月最初の「根本会」 その席で、白石は目をキラキラと輝かせながら僕に訊いてきた。 「いや、まぁ……」 語るには複雑な事情が多すぎる為、僕は苦笑する事で言葉を濁す。 「つっても、お前ら。 ホテルで一緒の部屋に泊まってきたんだから、もう一発ヤッてきたんだろ? どうも女の方が、ダブルベッドの部屋を予約したりとか、有岡よりその気だったみたいだしよ」 「いや、待てや。広田。 お前、余計な事を白石に言うなや」 僕は鉄火巻きを掴もうとしていた手を止めると、軽口を叩く広田を咎める。 「別にいいだろが、俺の言ってる事は事実なんだしよ」 広田はビールを飲み干し喉を湿らせると、さらに言葉を続けていった。 「つーか、友達とか訳分かんねえ関係で二人で旅行行ってる時点で、俺から言わせればおかしいんだよ。 有岡、正直に言えや。 お前、マコトちゃんと一発ヤッてきたんだろ?」 「……まぁ、そういう事はあったけど」 広田の作り出す圧に屈した僕は、白石に聞かれたくない言葉を渋々返答として述べた。 「わー、有岡くん。やるじゃん」 その僕の言葉を聞いた白石は、恥ずかしがるどころか僕とマコトの恋愛が成就したと思い込み、手放しで喜ぶ。 そして、その白石の様子から、白石が僕に一ミリも恋愛感情を抱いていない、という事が改めて分かった僕は少し物悲しくなった。 「じゃあ、これで有岡も童貞卒業って訳だよなぁ。 ダイキチ!」 ここで、「根本会」の常連である森が間の抜けた発言をし、場の雰囲気を和ませる。
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