●アリオカタクヤ、か

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●アリオカタクヤ、か

そろそろ、梅雨の気配が見え始めてきた、5月最後の土曜日。 曇り空を頭上に配した僕は、前回も待ち合わせに使った市民公園のベンチへと座ると、Twitterでたわいも無い事を一つ二つ呟きながら待ち人であるマコトを待っていた。 「お待たせ」 待ち合わせ時間を15分程過ぎた辺りで、マコトがやって来た。 「久しぶり」 微笑を浮かばせながら僕は言葉を返すと、マコトは右手に持っている紙袋を僕に手渡す。 「これ、前に言ってた『こめ』のCD。 全部で3枚あるからさ、またこうやって会った時にでも返して」 「ありがと」 僕はマコトから紙袋に入った「こめ」のCDを受け取ると、ベンチから立ち上がった。 「さて、カラオケにでも行きますか」 僕は言うと、スマートフォンをカーゴパンツのポケットに入れ、カラオケのある繁華街へと歩を向ける。 「その前に、どっか入らない?」 しかし、マコトは傍らから言葉を投げ掛け、僕のその歩を止める。 「ちょっと、電車に乗らなきゃなんだけど、美味しそうなパンケーキの店があるんだよね。 三時間ごとに限定で20食しか出されないヤツなんだけど、もうネットで予約したから、今から向かったら1時に出される分で食べれるよ。 どうする?」 「えー、先にLINEとかで言っといてくれよ。 俺、もうラーメン食ってきちまったよ」 唐突なマコトの提案に、僕は頭をかいた。 「食べられないってんなら、予約取り消すけど……。 どうする? やっぱやめとく?」 「いや、待ってよ……」 僕はお腹に手をあてながら、自身の胃袋のキャパシティがあとどれくらいあるのかを計算する。
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