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●20××年、夏、掛川
少し不穏な空気が流れたものの、新幹線が静岡県に入り、夏フェスの会場がある掛川が近付いてくると、僕とマコトのテンションは否応にも高まっていった。
「夏フェスでの米倉さんとか初めて見るんだけど、ホント新鮮だよね」
マコトも僕と米倉さん関連の話や、Twitterでのこぼれ話をしていく内に機嫌が戻ったのか、すっかりと屈託のない笑顔を浮かべるようになった。
新幹線のアナウンスが、間もなく掛川駅に到着する、と告げる。
そのアナウンスと共に、僕らと同じく夏フェスに行くのか、事前にWeb販売で購入した「フェスT」を身にまとった人達が、次々と客席の出口に向かっていった。
「結構、カップル多いよね」
吊棚からリュックサックを降ろしながら、マコトが僕に言う。
「ちょっとした小旅行だから、付き合っててどっちかが出てるゲストに興味があったら、行こうかって感じになるんだろうね」
「もしかしたら、私達もあの人達からしたらカップルに思われているかもね」
「実際はお互い、『友達だから』って言い合ってるんだけどな」
マコトの言葉に返答したその時、不意に先日の広田の発言が僕の脳裏に浮かび上がってきた。
──『マコトちゃんはもう、お前に抱かれる気マンマンかもしんねえぞ。
だからよ、有岡。
お前はそのマコトちゃんの期待に応えて、一緒のベッドに入った時点で襲っちまえばいいんだよ。
大体、女の側からダブルベッドの部屋を予約する時点でおかしすぎるだろがよ。
これはもう、マコトちゃんからのサインなんだよ。
お前にヤって欲しい、っていうよ』
「どうしたの?」
固まったまま、座席の付近で動かなくなっている僕の様子が気になったのか、マコトが振り返り訊いてきた。
「ほら、もう電車停まっちゃうよ。
早く、出口に行かなきゃ」
マコトは言うと、僕を促すようにせわしなく客室のドアに手をかける。
「……あっ、ゴメン」
僕は我に返ると、マコトに続く形でリュックサックを両肩にかけ、右手にレジ袋にまとめたゴミを持ち、せわしなく客室を出た。
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