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●タクヤ、お酒買ってきてよ
タワーレコードのブースでRasp berryのベストアルバムを購入し、同じく会場内に出店していたCiaopanicでTシャツを購入すると、僕らはシャトルバスに乗り込み、夏フェスの会場である「つま恋」を後にした。
「明日が本番だね。
米倉さん、明日は一人で出てくるし。
今日は『前日祭』って形の開催だから、言葉通りこのフェスの雰囲気を楽しませてもらった、って感じだよ」
掛川駅へと向かうシャトルバス内で、マコトは鼻息を荒くさせながら僕に対して熱く語った。
掛川駅へと着くと、僕らはJRに乗り、ホテルを予約している浜松駅へと向かった。
「ホテル代、ゴメンな。全部出させてよ。
LINEでも言ったけど、金は絶対に返すからよ」
電車内で僕は、密やかな声でマコトに対して謝罪をする。
その僕の謝罪に対して、マコトは
「いいよ、いいよ」
と、おおらかといった様子で返答した。
そのマコトの様子から、まるで返済など期待していない、とも取れたが、さすがにこれは僕の自分勝手な思い込みであろう。
浜松駅で電車を降り、コンコースへと出ると、僕らは駅の案内掲示板に従い宿泊を予約しているホテルへと歩を進めていった。
「浜松って、動く歩道がいっぱいあるんだね」
過剰なまでに設置されている浜松駅の動く歩道に、マコトが子供のようにはしゃぐ。
ホテルへと着き、フロントでマコトがチェックインの手続きを済ませると、僕ら二人はフロントから指示された43階の客室に行く為、エレベーターへと乗り込んだ。
エレベーターが上昇し、ガラスの向こうでどんどんと広がる浜松の夜景を見ていると、僕はどこかマコトに背中を押されて大人になったような気がした。
43階へと着き、エレベーターを降りると、僕とマコトは雲の上のように柔らかな通路を歩き、部屋へとたどり着いた。
「カードキーとか見た事ねぇ。緊張するよなぁ」
すっかりと気分が高揚している僕は、マコトが手にしているカードキーを見ながら言葉を吐く。
しかし、マコトはどこか慣れた手つきでカードキーを挿し込み、ドアを解錠させた。
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