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ドアに手を掛けた。それが横に開けば、先輩が奏でる音が、より強く響いてくる。
そして、少し茶色がかった瞳が徐にわたしに向けられると、美しい旋律は、やっぱり何処か優しい余韻を残して、止んだ。
色付いた唇に、先輩は気付いただろうか。何の感情も読み取れない双眸が、わたしを映している。
馬鹿みたいだと思われているのだろうか。先輩がゆっくりと首を傾げた。
だからわたしは、何か言われる前に、と。息を吸い込んだ。そして。
「あの、先輩……、」
勇気をもらう願掛けみたいに乗せた赤の隙間から、言葉を押し出す。
「わたしと、別れてもらえませんか?」
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