寂時雨

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 君が失踪してから僕は決めたんだ。君と最後に別れた最寄り駅で、待ち続けると。別に怒っていた訳じゃないけど、あの日は何故かカフェを出た後別々の帰路を辿った。気が動転していたんだ。それから君はいなくなった。もう十年以上前の話か。それでも、君の死体を見るまで、僕は納得しないよ。どんなに腐敗しててもさ。確かに色々忘れていたのは僕の方だった。君と結婚する約束をしていたんだ。大切なことを忘れていた。君がふと、この駅の改札やカフェの前に現れるまで、僕は忘れ去ってしまった人々に透明のビニール傘を配る。僕はいつまでも忘れないように、鈴の花――君の――白い傘を差し続けよう。
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