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中学三年生になった。十五歳。小学校からそのまま進学した中学校で、小学校より少し離れた場所にある。しかし、そんなことは二人には関係などなく、相も変わらず鈴花と佳哉は二人で、傘を差しながら学校へ通っていた。学年随一の変わり者カップルとして、嘲笑の的になっていたが、そもそも二人は付き合っていなかったし、変わり者は他に多くいた。
随分と大きくなった傘の直径分だけ離れて、二人は横並びで中学校へ向かう。前より遠くまで見えるようになったが、その分開いた二人の距離を、互いに言わずもがな感じていた。でも決して忘れないようにしていた。
空は晴れ。傘の下で二人は確実にそれを感じている。靴箱に着くと同時に傘を畳み、何人かがそれを凝視し、靴を履き替えてそれぞれのクラスに向かう。
「鈴花、それじゃ後で。昼にいつもの場所で」
「わかった。ちゃんと勉強するんだよ」
傘は傘立てに置かずに教室まで持っていく。これは傘を盗まれて息ができなくなるのを防ぐための、二人で編み出した防衛策だ。晴れた日でも、傘は盗まれる。
昼になると、佳哉は四階の音楽室の横の廊下に向かった。その廊下の端には、屋上へ繋がる途中までの短い階段があり、昼はそこで鈴花と落ち合うのが日課となっている。早めに来たつもりが、鈴花はすでにそこにいた。
「遅かったね」
「鈴花が早すぎるんだよ」
鈴花は短い階段から立ち上がり、窓の方へ寄ると勢いよく窓を開け放ち、腕をクロスさせて寄りかかり顎を乗せた。佳哉も真似をし、せわしなく給食の準備やらをしているクラスを眺める。
「給食って、我慢ならないよね」鈴花は微塵も目を離さず言う。
「早く高校生になりたいよな」佳哉は鈴花の方を見て言う。
「そうかな。私はむしろ戻りたいけど」
「戻りたいって何に?」
「まだ何も忘れてなくて、全部覚えてる頃かな」
「それっていつぐらいだろ?俺はまだ忘れてない、これからも忘れない気でいるんだけど・・・・・・」
「わからないけど、私たちはきっと、それを覚えてないといけなかったの」
「そうか。失ったことすら忘れてるかもしれないのか」
しばらくの沈黙の後、鈴花は切り出した。
「ねぇ佳哉、高校どこに行くの?」
「まだ決めてないんだよな」
「そうなんだ。私は八ノ瀬高校に行こうと思ってるの」
「確かに、八高だったら俺たちの家から一番近いし、それもいいな」
「てっきり、佳哉も目指すのかと思ってた」
「正直高校のことなんて全然考えてなかったからな~。考えてみるよ」
「ほら、傘を差して行けるでしょ。今までと同じように」
「言われてみればそうだ。他の学校だと自転車通学になっちゃうか」
「そうだよ・・・・・・」
「まぁ、考えて見るよ。そろそろ教室に戻ろう。また放課後、ここで待ち合わせよう」
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