寂時雨

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 チャイムが鳴って放課後。待ち合わせた場所に二人はいた。鈴花は白い傘を持って、佳哉は黒い傘を持って。昼と同じ位置で、向かい側の校舎のクラスを眺め、疎らになってなってゆく人々を眺めていた。クラスが寂しくなると、今度は校舎に落ちる太陽と、その陰を眺めることに専念していた。  風が吹いて、鈴花の純粋な黒髪が流れて頬に掛かった。すると、思い出したように彼女は言った。 「夕立が来るよ。外へ出なきゃ」 「そうだな。ゆっくりと帰ろう」  二人は急いで階段を下りた。靴を履き替え、いつも通り傘を差して外へ出ると、ちょうどのタイミングで雨が降ってきた。今日は特に激しい。二人は顔を見合わせて、満面の笑みを浮かべた。  鈴花と佳哉が世界に馴染む瞬間が来たのだ。外で部活動をしている生徒はみんな引き上げ、正門の所まで歩み進んでいた生徒たちは走って校舎の方へ戻ってきた。その中で、変わり者の二人は唯一正しい存在となって、ゆっくりと帰路へ着くのである。 「やっと降ってくれたね、雨」  鈴花は心底嬉しそうにそう言って、天を仰いでわざと濡れて見せた。  佳哉は優しく頷いた。毎度夕立を予言する鈴花の特殊な能力には驚かされるが、それよりも彼女の笑顔を見られて、どうしようもなく幸せな気分で溢れていた。  学校からいくらか離れると、二人ともスクールバッグをリュックみたいにして背負い、片手で傘を、もう片方の手でお互いの手を繋ぎあった。傘の直径ほど離れていた距離が、少しだけ小学生の頃の距離に近づいた。  辺りから完全に切り離された世界で頬を染め合う。 「家へ帰ろっか」  
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