恋って残酷――

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 ダチを相手に褒めるわけじゃないが、コイツは滅法イイ男だ。  濡れ羽色のストレートに切れ長二重のクールな瞳。タッパは長身が自慢の俺よりも、ほんの僅かに高い筋肉質で、見てくれだけでもたいがいの女なら一撃必殺ってくらいの男前だ。その上もって、一見の無愛想を裏切るきめ細やかな気配りも持ち合わせてると来りゃ、文句ナシだ。女だけじゃなく野郎にだって好かれる、いわばケチのつけようがない位のデキた奴。  こんな男に好意を持たれれば、誰だって悪い気はしないだろう。例えば相手がコイツに対して、恋愛感情やら好意やらを全く持ち合わせていない初対面の人間だったにしても――だ。  なのに告るどころかこうして遠目に見つめているだけで、しかも物憂げに溜息なんかをつかれた日にゃ、理由のない加虐心までもがこみ上げてきそうになる。  苛立ちをそのままに、俺はついヤツにちょっかいを出すのをやめられなかった。 「なあ、さっきっからボーッとしてっけど? もしか恋煩いとか? つまんねえ妄想にふけってねえで気晴らしでもしねえ?」  気を遣ってやった俺の問い掛けも、聞いているのかいないのか、まるで無反応のままに、未だ渡り廊下を追いかけていやがる。そんな態度にカッとなって、 「俺がなってやろか? てめえに恋人ができた時の予行演習も兼ねてさ。そうだな……キスでもさせてやろっか?」  わざとヤツの肩に肘を預けて寄り掛かり、たった今食ったばかりの甘いメロンパンの香りがはっきり伝わるくらいの近距離に顔を近づけながら、そうカマをかけてみた。
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