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――随分悶々としてるみたいだからさ、俺が慰めてやってもいいんだぜ?
そんな意味を込めて挑発してやったつもりだ。
だがヤツは焦りもせずに俺を振り返ると、半ば呆れ半分にポカンと少しの間を置いて、
「戯けてんじゃねえ」
と、短く突っ放しやがった。
おまけに俺自身ちょっと自慢の高い鼻筋を、グイとデカイ掌で押し返されてブチ切れもんだ。
つっけんどんなその態度に、こめかみ辺りがヒク付くと同時に心の深いトコロがグキっと痛んだ気がして、俺はひどく癪な気持ちにさせられた。
同じコトをあいつがしたならそんな態度はしないだろうに、そう思えばより一層癪な気持ちがこみ上げた。
今、眼下の渡り廊下を楽しげに微笑いながら歩くあいつが、こんなふうに顔を近づけて同じことをしたのなら、お前はどんな顔をするんだろう。ちょっと驚いて硬直して、でも悪い気はしないからすぐにフッと微笑んだりするのだろうか。
挙句、『バカなこと言ってんなよ』なんてあいつの髪なんか撫でながら甘い台詞でも吐くのかよ?
そんな想像をすれば、余計に腹が立った。と同時に心のあらゆる部分がスカスカになっていくようなヘンな気持ちになって、俺は何だかひどく傷付いたような気がしてならなかった。
相手が俺だから、
どうでもいい俺だから、そんなそっけない台詞を平気で返す。
眼中にない俺だから――
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