恋って残酷――

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 しばしの沈黙を置いてヤツが言った。  低い声で――そう、まるで地鳴りのするようなめちゃくちゃ重い声で――言った。 「相手――誰だ」  思い切り不機嫌そうに睨み付けてくる。ヤツのこんな顔を見たのは初めてだ。  いつもは往々にして穏やかで、誰かに対して怒っているところなんか見たこともないってのに。そんなこいつが、目を三角に吊り上げて鋭い視線で睨み付けてくる。  俺、何か気に障ることでも言っちまったんだろうか――、こんなおっかねえ顔したこいつに、驚きを通り越して冷や汗が出そうになる。 「な……に怒ってんだ……。ンな、メンチ切って……イケメンが台無し……」 「()えよ。誰だ――」 「誰……って」  タジタジになって一歩後退さりした瞬間に、デカい掌でガシッと髪ごと頭を掴まれて、俺は息が止まる思いに陥った。  煙草の匂いが立ち上る――  ほろ苦い独特の香りがツンと鼻を撫でる――  気付けば、視界に入りきらないくらいの近い位置でヤツの鼻先が俺の頬骨を撫でていた。 「どこの女だ。年上(うえ)か、年下(した)か?」 「……どこの……って」 「俺にゃ言えねえわけか?」  見なくても分かる。めちゃくちゃ機嫌が悪そうな声音がこいつの本気の怒りを訴えてくる。  ビリビリと、ジリジリと訴えてくる。
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