恋って残酷――

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 思わず背筋が寒くなりそうになって、目の前の胸板を思い切り突き飛ばした。 「何、急にッ……! 何、怒ってんだっ、てめ……! ワケ分かんね!」  乾坤一擲(けんこんいってき)とばかりに怒鳴り上げ、勢い付いた拍子にガシャーンと大きな音を立てて後ろの金網に思い切り背中をぶつけた。  目の前では、今の今まで俺の頭を抱えていたヤツの大きな掌が、(くう)で止まったまま行き場を失くしたように硬直していた。  そんなヤツの表情も、まるで驚愕といったように歪んだまま硬直していた―― 「あ……悪り……、その……突き飛ばしたりして」  咄嗟に謝ると、ヤツの唇が微かに弧を描くようにうごめいた。 「――俺の方こそ悪かった。つい頭に血が上っちまって――すまねえ」  素直に謝ってくる姿が、何だか酷く切なげで、普段のこいつからは想像も付かない。まさに泣きそうなツラで苦笑している。 「ンだよ……。今度はてめえの方が泣きそうなツラしてよ……」 「ああ――そうかもな」 「そうかもなって、お前……」 「まさに泣きてえ気分だぜ――」  はっきりとした苦笑と共にヤツは言った。 「さっきは悪かった。てめえに好きなヤツがいるって聞いて血迷った。許せな?」 「――ッ!? ……って……それ、どういう……」
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