230人が本棚に入れています
本棚に追加
思わず背筋が寒くなりそうになって、目の前の胸板を思い切り突き飛ばした。
「何、急にッ……! 何、怒ってんだっ、てめ……! ワケ分かんね!」
乾坤一擲とばかりに怒鳴り上げ、勢い付いた拍子にガシャーンと大きな音を立てて後ろの金網に思い切り背中をぶつけた。
目の前では、今の今まで俺の頭を抱えていたヤツの大きな掌が、空で止まったまま行き場を失くしたように硬直していた。
そんなヤツの表情も、まるで驚愕といったように歪んだまま硬直していた――
「あ……悪り……、その……突き飛ばしたりして」
咄嗟に謝ると、ヤツの唇が微かに弧を描くようにうごめいた。
「――俺の方こそ悪かった。つい頭に血が上っちまって――すまねえ」
素直に謝ってくる姿が、何だか酷く切なげで、普段のこいつからは想像も付かない。まさに泣きそうなツラで苦笑している。
「ンだよ……。今度はてめえの方が泣きそうなツラしてよ……」
「ああ――そうかもな」
「そうかもなって、お前……」
「まさに泣きてえ気分だぜ――」
はっきりとした苦笑と共にヤツは言った。
「さっきは悪かった。てめえに好きなヤツがいるって聞いて血迷った。許せな?」
「――ッ!? ……って……それ、どういう……」
最初のコメントを投稿しよう!