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身長195超えの厳つい男を、身長153の姉が初めて家に連れてきた時は仰天したものだった。
「ねーちゃんどーした! 誘拐されたのか!」
「誘拐って、琉ちゃん。ここ、私の家よ?」
くすくす笑う呑気すぎる姉の手を思わず引っ張って、背後に隠した。ちょうど野菜炒めを作ろうとしていたから、フライパンをまだ靴も脱いでいない保の胸元につきつける。
「おいあんた! うちは確かに両親死んでるけど、遺産なんてねーから! 細々とふたりで暮らしてるんだ! 姉貴を脅したって、なんも出てこないぞ!」
「琉ちゃん、ちがう、ちがうって」
さすがに慌てたのだろう、背中をどんどん叩かれた。普段おとなしい瑠璃が、珍しく怒ったような声をだすのに驚いて振り返った瞬間、目の前の大男が盛大に噴き出した。
それが今年の4月のことだった。
「私、もうすぐ醒ヶ井瑠璃になるの。でも、琉ちゃんを1人にはしないよ。保さんもここで暮らしたいって言ってくれてるし、家族がひとり増えるんだよ?」
瑠璃は、世界中の誰よりも幸せだという顔をして、薬指に指輪をはめた手で保のたくましい腕に触れていた。保も、宝物を見るような優しいまなざしで、瑠璃を、瑠璃だけを見つめていたというのに。
今は部屋数だけは多い古い家に二人だけで暮らしている。
仏壇には、両親の写真の隣に、あの日よりも幸せそうに笑う瑠璃の写真も並んでいた。
幸福なはずの新婚生活は、わずか2ヶ月で幕を閉じたのだ。瑠璃の突然死という結末で。
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