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3
夜中にあまりに喉が熱くて目が覚めた。喉が焼かれたみたいに熱い。そして喉もカラカラに乾いている。
(み、水……っ)
起き上がろうとしたら、視界が練り飴みたいに崩れ落ちた。膝から床に倒れそうになったのを、あたたかいぬくもりに受け止められる。
「大丈夫か、琉汰?」
灯りはついていなかったが、目が慣れてくると、水気に潤んだ瞳が見えた。先ほど怒鳴られた時とはまるで違う、人懐こい熊のような穏やかな瞳だ。
「……喉乾いたのか、待ってろ。用意してくる」
軽く頭を撫でられ、布団に転がされた。知らぬ間にダウンは脱がされ、服もパジャマに着替えさせられていた。だがそのことに文句も言えないほど弱っていた。体の節々が痛むし、頭もはっきりしない。このまま死ぬのかなとぼんやり思った。
「ほら、口を開けろ」
いつの間にか戻ってきていた保に、腰のあたりを抱えられた。弱々しく口を開くと、冷たいコップの縁があたって気持ちよかった。そのまま液体を飲み込む。少し甘い。水ではなくスポーツドリンクだった。甘くて冷たい液体が身体中に沁みこんでいく。
「また飲みたい時は言えよ。蜂蜜も入れてあるから、元気になるぞ」
優しく囁かれて不覚にも泣きそうになった。枕は氷枕に変えられ、額にも熱冷ましのシートを貼られた。そして目の前の男にぶたれて腫れた右頬にも、冷たい布があてられる。
「……痛かったか? ごめんな」
そんなにも優しく聞かないでほしい。せっかくこらえていたのに涙が溢れてしまった。それを見られるのがいやで目をそらしたが、涙は止まらなかった。
「ただな、お前の勘違いだからな。あれはただ単に、彼女が雪で足をすべらせたから支えただけで、俺が彼女とどうこうなんていうのはないから」
まるで瑠璃に言い訳をしているみたいな口調に、そっぽをむきながらも琉汰は思わず微笑ってしまった。おかしな人だなと思う。彼が自分に遠慮なんてする必要はないのだ。だって保は瑠璃のもので、琉汰のものではないのに。
本当は自分が怒る資格なんてない。謝らなければならないのは自分の方なのに。この人は。どうして。いつも。
「……保さん」
がらがらのかすれた声で彼の名を呼んだ。初めて呼んだ。
「えっ。琉汰、君、いま……」
焦る保に寝転んだまま軽く微笑んだ。そして布団から手をさしのべる。
「いっこだけ、おしえて……くれない、かな」
熱で朦朧とする頭で、保を見上げる。今しかないと思った。聞くのなら今しかない、と。
「どうして、俺のこと、放っておかなかったの? だって俺、何も……、保さんには何も返せない、のに」
「琉汰……」
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