加藤の話

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加藤の話

 殺人事件が起きた。ある夜N市の路上で男が刺殺された。同市で同様の事件が三件ほど立て続けに起こっている。しかしながら、手掛かりはほぼ全くない。犯人の年齢も性別も体つきも分かっていない。唯一明らかなのは、傷口から推測できる凶器が傘であるということだ。  加藤は学生ながら、今世間を賑わしている「傘殺人」の犯人を突き止めようとしていた。幸か不幸か加藤はN市に住んでいたからである。学校が休校になったり、住民は怖がったりで街にいる人は半分ほどに減った。そんな中、加藤は外へ出て自主捜査を続けた。それでも夜が来る度に犠牲者が増えていった。  最初の事件が発生してから一週間で、警察は夜7時から朝の5時まで外に出ないように呼び掛けた。事件が起こった時間がちょうどその間だったからである。その時間は警察が見回りをしているため、加藤は外に出て捜査することができなかった。そのため学校の休校を利用して捜査を行った。警察の努力を嘲笑うかのようにのように犠牲者は、減るどころか増える一方だった。  その日も加藤はいつも通り昼前に街へ出た。なんの成果も得られない聞き込みをして、証拠を探して事件現場の地面を這い回る。毎日そんなことをしている。その時すれ違った女が傘を持っていた。今日は天気が悪く、午後から雨が降るらしかった。加藤はその傘を見て心臓が高鳴った。息が苦しくなるほどの動悸だ。それなのに女の傘を目で追うことをやめられなかった。曲がり角で女が消えた時、やっとそれから解放された。  加藤はその日いつもより早く家に帰った。  次の日、加藤は一人暮らしの静かな部屋で目が覚めた。昨日の疲れは吹き飛び、体は軽く感じられた。昨晩よりもスッキリとした目元に安堵しながら顔を洗う。捜査へ行く準備を済ませ玄関へ向かう。そこで加藤は目を疑った。玄関の傘立てに、血に塗れた傘が差し込まれていた。
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