24人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「あの、妹の明日可の友人ですよね?」
「はい?」
「妹の明日可から、双子って聞いてますか?」
「え! 知りませんでした」
男性は絶句していた。申し訳なさそうに下を向く。
双子の妹、明日可は都会の大学に進学した。わたしは地元の大学生だ。子供の頃から全然知らない人から、たびたび声をかけられた。
別々の高校に進んだ。明日可の先輩みたいな人に、声をかけれれば、笑顔で軽く頭を下げていた。
「名前を教えてもらえませんか、明日可に電話してみます」
「お姉さんとは知らず、ホントにすみませんでした。大室。妹さんの明日可さんと同じ、東都大の大室です」
大室さんは、頬を染めながら、頭をかいている。わたしは、後退りして、一定の距離を保つ。警戒心より、ムカつきが大きい。
ポケットからスマホを取り出して、明日可に電話した。
「どうしたの?」
明日可の、間延びした声が電話越しにした。橋の上で通行する方が通って行く。人目もあるので、声色を意識して柔らかくした。
「東都大の大室さんと、橋の上でお会いしたの」
「わわ、わたしのカレ。家に案内して」
オマエなー、こっちはタイムセールに向う途中で、忙しいんだよ。橋まで自分が来い! 言いかけた声は、喉でとめれた。
スマホの通話を切った。ポケットにスマホを滑らせながら、頬を緩ませる。
「大室さん、家までご案内します」
「ホントすみませんでした」
「いえ、悪いのは、双子って説明しなかった明日可です」
くるりと、大室さんに背中を向けて、憮然としながら、家に戻る。後ろを大室さんがくっついてくるが、こんな早とちりの男、うっとうしい。
自宅の扉を開けて、大室さんに入るように促す。
「大室さん、散らかってますが、どうぞ」
「失礼します」
「航太ー!」
明日可サンダル履きで、玄関を下りてくる。慌ててブラッシングとしたのが分かった。頭上でくせ毛が、くるりとなっていた。
「大室さん、わたし、買い物があるので出かけます」
「行ってらっしゃい」
明日可が手を振っている。帰省してのんびりし過ぎな、オマエが言うな。
深く頭を下げる大室さんには、笑顔で応じる。
「実家の家事手伝わない、バカな妹ですが、親切にして下さり、ありがとうございます」
ばーか、ばーか、明日可のばーか、と胸の内で叫びながら、スーパーへ歩く。
タイムセールの商品棚に向えば、どれも空だ。まったく、明日可のせいで、知らない男に抱きしめらた。しかも、タイムセールに間に合わなかった。
ふてくされながら、橋の上で立ち止まった。川が夕焼けを反射して、水面が美しく輝いている。
欄干に両肘を突きながら、空を見上げた。白っぽい月が光を帯びている。
わたしは、帰宅した。
***
最初のコメントを投稿しよう!