日暮里・谷中銀座商店街

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日暮里・谷中銀座商店街

「はじめてなのに、懐かしい。」  そんなキャッチコピーと共に掲載された、日暮里谷中ぎんざ商店街の写真。  見たとたんに、ああ、確かに。と頷いてしまった。  そこまで観光地として推し出している訳でもなく、のんびり楽しめそうな下町。という印象で、以前降り立った事がある。  その予想は、半分当たり、半分外れた。  のんびり楽しめるものの、見所が多すぎて、時間が足りなく感じる程だったからだ。  該当地への道筋は日暮里駅の西口を出て左手の坂道を上っていく。途中、お寺がいくつかあり、歴史を感じる道のりに期待が高まる。  少し歩いていくと、商店街を前にしてすでに昔ながらの商店がいくつもあり、ついつい覗いてしまう。  おせんべい屋さんには、丸くて大きなガラス瓶それぞれに、何種類ものお煎餅が入って陳列されている。  ざらめ、抹茶、醤油…そのディスプレイに思わず足を止め、何枚かのお煎餅を購入した。  ふと目線を反対側の道へやると、人だかりのあるお店があった。柱や屋根の色が深く、店構えも創業時代を感じさせる。  道を渡り、そちらへむかうと、昔の商店街にはよく見られたのかも、と思わせるようなつくだ煮屋さんだった。  大皿にそれぞれのつくだ煮がこんもり乗せられている様は、大家族の食卓の一皿を思い起こさせる。  鮪、しいたけ、こんぶ、他にも甘味の豆類等があった。  どれもこっくりとした色合いで、つやつやと光り美味しそうだ。おかず類はどれも絶対白米に合うだろう。  おばあさんが計算をし、渡してくれる。なんだか、田舎のおばあちゃんに会ったような、そんな懐かしさが沸き立った。  そのままビニールに輪ゴムでとめて渡してくれたのだが、了承したにも関わらず、しきりに「包装しなくてごめんなさいねぇ」と申し訳なさそうにされていて、いえいえ、と答えつつ、その心遣いに和んでしまった。  商店街に向かう前に色々と買ってしまったが、途中もお蕎麦屋さんやケーキ屋さん、入ってみたくなる店が色々あった。  それらを横目にようやく商店街へと到着する。  階段の下に「谷中ぎんざ」と門があり、見晴らしがとてもよい。  ちょうど夕刻だったため、夕日がとてもよく見えて思わずスマホのカメラを構えた。  階段を下りると傍らの木の標識に「夕やけだんだん」と書かれていて、なるほどなぁと納得した。ここから見る夕焼けは確かにとても美しかった。  商店街に入るとやはり中々混んでいる。  けれど程よい混み具合というか、人の流れがゆったりとしているからか不快には感じない。  むしろなんだかわくわくしてしまう位だ。  商店街の門をくぐったすぐに竹細工のお店があった。  荷物が多くなる前がいいだろう、と最初に入ってみることにした。  店内には竹で出来た籠状の花活けや、竹で出来た栞、茶道具、箸等の日用品、展示用の竹細工……様々なものが陳列されていた。  中でも印象的だったのは、展示用の竹で出来たトンボ。  といっても一般的に思い浮かべる、飛ばすための竹トンボではなく、昆虫のトンボを精巧に、それもふた回り以上も大きく作ってあるものだ。  羽部分は細く平たい竹を編んで作ってある。部分ごとの編み方の違いによって、一色なのにメリハリがある。  製作期間はどのくらいかかるのだろうなぁ……と考えるのは野暮だろうか。それくらい細部まで細かく、見ていて飽きないトンボだった。  店内を物色し、お土産用には竹で出来た栞を買うことにした。  柄が何種類もあり悩んだけれど、やはりこの商店街らしさのつまった、夕焼けの谷中銀座商店街を描いたものを購入することに。  旅のお土産は、その地に行ったときの思い出を呼び起こしてくれるから好きだ。  だから最低でも一つは、形に残る物を買って帰るのが私の定番になっている。  もちろん、食べ物のお土産もたくさん買うのだけれど。  少し歩くとお惣菜屋さんからとても良い香りが漂ってきた。  焼き鳥の、たれの醤油と鳥のコクが混ざったような芳ばしい香り。  思わず足を止めると、お店は中々の列になっている。ならばやはり美味しいのだろう、とかえって決意が固まり買うことにした。  つくねを買うと袋ごと渡される。ちょいと路地裏に入ってから、コッソリいただくことにした。  ふわふわのつくねにあまじょっぱい醤油だれが絡んで、ご飯がなくとも小腹を満たすおやつとしていけるような感じだ。食べ歩きながら商店を散策するのになんだか合っている気がした。  路地から商店へ戻り、少し進むと手書き風に「わらびもち」と書かれた看板が。その下には左を示す矢印。  少し奥まった細道を進むと、暖簾とともに引き戸のお店があった。  中には数名のお客さんがいて、そう広くは無いけれど落ち着いた、雰囲気のいいお店だった。  奥から店の人が出てきて、先客の接客をする。後ろに並んでいると、ポットのお茶をご自由にどうぞ、と言われたのでいただく。  コップを返却する際に少しお話すると、わらびもちが手造りなのは勿論、数量限定でプリンもあるとのこと。  この日は残念ながら売り切れていたが、また是非伺って食べてみたいなと心に留めておく。お土産にわらびもちを購入して店を後にする。  メイン通りの程よい喧騒もいいけれど、少しそれた静かな道も好きなので、道の端を歩いているとまたしても看板があったので導かれるまま左へ。  少し進むと雑貨屋さんのような可愛い店構えが。入ってみると、どうやら砂時計の専門店らしい。  それぞれの星座をモチーフにしたもの、落ちる砂が真ん中と外側で色味の変わるもの、言われなければオシャレなインテリアかと思うような大きさの砂時計、などなど、様々な物があった。  そういえばキッチンタイマーは持っているけれど、砂時計は持っていなかったなと思い、その懐かしさに思わず一つ手にとってしまう。  甲高い電子音でなく、サラサラと砂が落ちる様子を見届けてお茶を煎れるのも良いかもしれないと、3分計を一つ購入した。  仕組みが目で見て分かる物は、現代だと妙に安心感を与えてくれる気がする。  通りに戻って散策を続けると、今度は店先に食器が重ねて飾られているのが目に入った。  お茶や和食器を売っているお店らしい。  観光地に赴くとこういった和のお店に惹かれてしまうのはなぜなのだろう。  今回も抗えず、店内を見てみることに。  入ってみると思っていた以上の品数に驚く。日常の食器や、急須、茶碗、茶道具、茶葉……さまざまな種類で見応えがある。  中でも私が初めて知り興味をひかれたのは「茶香炉」。  陶器でできた香炉の中に熱源であるキャンドルを灯し、その上の受け皿に茶葉を乗せてじっくり燻す。そうすると温まった茶葉からふわりとお茶の香りが漂ってきて、室内に広がるというもの。  強すぎずほっと落ち着くいい香りなのは勿論、お茶により室内の消臭効果も期待できるらしい。  茶道や香道から派生したものなのかと思いきや、発祥はごく最近だというのだから驚いた。近代になってもこういった文化は生まれるのだなと妙に嬉しくなる。  梟の形をしたかわいらしい茶香炉と、それ用の茶葉、キャンドルを購入した。  そこそこの時間歩いたのでさすがにお腹がすいてきた。  来た道を戻りつつ歩いていると、お蕎麦屋さんの看板が目に入った。  ちょうどいいと入ってみると中は程よい広さの落ち着いた空間。招き猫の置物が置いてあるのが、商店街にあるお店という感じがして和む。  蕎麦も様々な種類があり悩んだが、歩き疲れたのもあってさらりといただけるとろろそばを注文。  のどごしが良く、汁もやさしい味で体に染み渡る。次に来たときはまた別の種類のお蕎麦をいただきたいなと思う。ごちそうさまでした。  日が落ちて辺りが暗くなってくると、商店らしく次々とお店が閉まっていく。  少し寂しい気分になるが、商売であってもこれくらいの時間で店を閉めるのが本来なら妥当なのかもなと思う。店側にも生活の片鱗が見えるのがなんだか懐かしい。  まだまだ見て回りたいお店があったけれど、暗くなってきたので名残惜しいが帰宅することにした。  キャッチコピーのように、懐かしさを感じる街並みにしっかりと活気もあって、どこかほっとする。  こういう街並みが減っていっているからこそ、この商店街が栄えている事がとても嬉しかった。  ふとしたときにまた訪れたくなる。そしてその機会はそう遠くないのだろうなと思いつつ、私はお土産を片手に電車に乗った。  ◆今回のお土産……おせんべい、つくだ煮、竹製のしおり、わらびもち、砂時計、フクロウ型の茶香炉、茶葉、キャンドル。
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