優しくなんかしないで

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優しくなんかしないで

 大きなスーパーの駐車場内に車を停めた。泣き腫らした顔で買い物は嫌だろうと配慮されて、そこで留守番をすることになった。  一緒についてきたくせに、荷物持ちにもならない私のことをユキヤママは責めたりしない。  誰だってきっと自分に余裕がないと、他人に優しくなんて出来ない。ママはパパとの修羅場の後トゲトゲしていた。ミユさえいなければ離婚するのに。そんな独り言が聞こえてきたとき、頭が真っ白になってしばらく動けなかった。  うんざりする。泣きたいのに、力も出なくて。  私という子供が邪魔になったって言ったママは、もう他人同然。  怒りなんて生温い。失望、絶望、どれもピンとこない。  ただ、信じられる人が私の世界から一人消えてしまった空白は大きくて、猛烈に虚しくなった。  パパも同じ気持ちだったのかな。誰からも必要とされていないと居心地の悪さを通り越して、自分は消えてしまったんじゃないかって思うぐらい、透明になる。  透明になった私達は、本当に死んでも気付かれないんだろうな…。  パパが出ていって一か月後。  いつの間にか出来たママの恋人が、我が物顔で家を出入りするようになった。ママより一回りぐらい若い男だ。  私はその男が信用できず、同じ屋根の下にいるのが本当に辛くて…。昼も夜も関係なく、ママにくっついてキスしたりスキンシップをするのを、見ていられない。  ママもママだ。私があんな怖い目にあって家に帰ってきたと知っているくせに。意を決して文句を言えば、「そんなことで泣いてたら、生きていけないわよ」と、鼻で笑い飛ばされる始末だった。その時、もう何を話しても無駄だと思った。  ママも、出て行ったパパも、自分のことで精いっぱい。だから、私のことをほったらかしにして良いの?  憎い男の子供だから、私のことはもう本当に要らないのね?  消えても良いんだね?  もう消えるね?  家を出るのにもだって勇気が要ったのに、ママはあっけらかんとしていたらしい。  彼女の中で、娘はとっくに死んだのだろう。
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