男の人が怖い

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 朝八時から午後一時までの五時間のバイトが終わった。世間話に花を咲かせているおばちゃんの後ろを通り抜けて、着替えを済ませてさっさと外に出ると、太陽が天辺でギラギラしていて眩暈を覚えた。  季節代わりだから、帰りは逆行きのバスに乗って服を買い出さないといけない。ファストファッションのシャツはワンシーズンで消耗してしまうので、必ず新しいシャツを買う必要がある。気を引き締めてバス停に向かった。  土曜日のショッピングモールは大勢の人達でにぎわっていた。私は男の人が怖いので、顔を上げずに歩いていく。太い首や厚みのある体を見るだけで手が震えるほどで、それでも一年前に比べたらひとりでこうして買い物にも出掛けられるようになったのだから良しとしている。  一枚790円の半そでシャツを五枚選んで購入した。制汗スプレーをドラッグストアで買い、総菜屋で今夜と明日のお弁当用のものを選び、安売りのバスタオルを買って、最後にドーナツ屋でお茶でもしようと立ち寄ると、そこに信じられないものを見た。  真っすぐな髪を綺麗に切りそろえ、左耳の上だけを刈り上げピアスをした男。ピンクのポロシャツに黄色みの強いダボ付いたズボン。左手にだけやたらと指輪をつけ、爪は神経質なほど切り揃えられている。その隣にいるのは、ミニスカートに上げ底のハイヒールを履いた着け爪の女の子。化粧もばっちりで、ハイブランドのバッグを腕に引っ掛けている。  二人は楽し気に話をしながら、笑っていた。ユキヤは私に気付かず、その女の子が腕にしがみつくのを振り払いもせずに、ドーナツ屋の隣のパンケーキ屋に入って行った。
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