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明りが付くと、ユキヤの後ろにユキヤママもいる。私を見つけると、小さな子に話しかけるみたいに優しい笑顔になって言った。
「ごめんねぇ、ミユちゃん。ちょっとならいけるって思っちゃって。私の周り底なしに飲むヤツらばっかりだから、驚いちゃった」
私は笑顔を取り繕いながら首を振った。
四角い座卓の左側に、ユキヤが座る。まるで野良猫みたいに、長い脚を折り曲げて三角座りした。今日見たことが頭を過って、ユキヤの方を見れない。
それなのに、ユキヤから視線を感じた。左頬がチリチリする。
「ポカリ買ってきたよ。結構吐いたから、飲んだ方が良いけど。まだ気持ち悪い?」
「…いえ。それより頭が痛いです」
突然、額をひんやりした手があてられた。ユキヤの手だ。いつも温かいはずの手が…
「…冷たい」
「外が寒かったんだ。俺が送っていくから、動ける?」
滑り落ちるように、冷たくて大きな手が私の顔や首をなぞる。これが普通の男の人だったら気持ち悪くて怖くなるのに、なぜユキヤにだけはそれを感じないのか、自分でも不思議。
この手が他の誰かに触れている、と思ったら。クラクラと、眩暈がした。
私達が部屋を出ると、あげは姉さんの声が追いかけてきて、タッパーに入った何かを渡された。
「これ、レンジでチンして食べて。お酒飲めなくても、また遊びにおいで。今度は占ってあげる」
「ご、ごちそうさまでした」
ユキヤの車の後部座席に乗って、タッパーの蓋を開けると、なんだかとっても濃厚で美味しそうな匂いがした。
「あ。それ、知ってる匂いだ」
運転席のユキヤがふやけた声でそう言った。
「パイだよね? これ」
「あの人、本当に料理上手なんだよ。おふくろが良く貰ってくるんだ。それ、マジで美味しいから」
意外だった。ユキヤがあげは姉さんのことを知っているのに、私は全く知らないのだから。どれだけ同じ時間そばにいても、一歩外に出れば全く知らない世界に生きている。
ユキヤがますます遠くにいるようで、寂しいという気分になる。
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