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「美味い料理があれば一瞬で幸せになれる、っていうのがあの人の座右の銘なんだ」
「…ふうん」
「興味ない? 俺の話、退屈?」
バックミラー越しに目と目が合う。私を見ずに前だけを見ているユキヤの顔が見たくなる。
「…そんなんじゃないよ。昼から誰かと一緒にいたくせに、話し足りないの?」
無意識に、そんなことを言い返していた。
「え? なんのこと?」
ギョッとした声に動揺が現れる。成り行きだけど、言わずにはいられない気分になった私は、言葉を選んでる余裕もなく思ったことを口走った。
「昼間、女の子とデートしてたのをたまたま見たんだよ。ちゃんといるじゃん。可愛い彼女が」
「あれはトモダチだよ!」
ユキヤがむきになって、言い張る。
「そんな隠さなくても良いじゃん。あの子、どう見てもユキヤにベタ惚れって感じだったじゃない!」
気付けば大声で、叫んでいた。
ユキヤが誰もいない深夜の住宅地の道路に車を停めた。
「……ミユが考えてるような関係じゃないから」
「私が何を考えてるって?」
「やましいことなんてないって言ってんだよ!」
運転席から在り得ない程首をひねってこっちを見たユキヤの目の淵が、赤くなっている。
本気で怒ったときの目だ。
「もう、やめない? こんな話したって、どうせ俺達はトモダチ以上にはなれないんだから」
トモダチ以上にはなれない。そうだった。そうだよね。
ユキヤは誰よりも一番、私の考えを理解している。
でも、自分じゃないユキヤの言葉でそう言われて。
心が、軋んだ。
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