トモダチ以上にはなれない

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 それからは無言で部屋に送られ、ユキヤは私の腕を掴みながらベッドの近くまで運ぶと、靴下を脱がせてくれて、布団をかけてくれて、さらにはあげは姉さんのタッパーを冷蔵庫に入れてくれて、電気を消して、部屋を出て行った。  ガチャン  鍵が閉まる音が、鉄筋コンクリートのアパートに響く。  うつらうつらしながら、何度も目が覚めた。  どうしてユキヤは自分の部屋に帰って来ないのだろう。  どうしてそばに居てくれなくなったんだろう。  私の唯一のトモダチなら、誰を差し置いてもそばにいてくれるべきじゃない?  あんな派手で化粧で素顔を隠したような、猫なで声でぶりっ子に喋るような女の子が、好きなの?  トモダチに腕を絡めたりする?  人前でくっついたりする?  あの二人がふわふわのパンケーキを分け合って食べている姿を想像したら、体が重くなってくる。  ユキヤには、私の知らない沢山のトモダチがいる。  だけど、あの女だけはたとえトモダチだとしても、なんかすごく、イヤだなと思った。      *  翌朝。アラームが鳴る直前に目覚めて、シャワーを浴びる。脱いだ服がほのかに酒臭くて、あの気持ち悪さまで戻って来そうにあって慌てて洗濯機を回し始めた。  朝ご飯の支度をしようと冷蔵庫を開けると、あげは姉さんのタッパーが真ん中の段のど真ん中に鎮座していて、自然と手が伸びる。再び蓋を開けると、とても綺麗なパイだった。  でも、なんだろう。ハンバーグみたいな、デミグラスソースみたいな、良い香りがする。  誘惑に駆られて、言われた通りにレンジでチンをしてからフォークで切り込むと、手応えがすごくある。香りも強くなり、見た目も凄く美味しそうだ。  ひとくち食べてみると、口の中でサクサクのパイ生地と濃厚デミグラスソースと、スパイシーに味付けされたお肉の絶妙なコントラストに心を全部持っていかれ。豊かな風味と食感。こんなに美味しいものを食べたことがない! っていうぐらいに感動した。  あげは姉さんの料理の腕はすごい!  しかも、これって聞いたことがあるミートパイというもの?  初めて食べた。
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