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衝撃的な美味しさに、しばらく放心状態で口の中の余韻を楽しんだ。
―――美味い料理があれば一瞬で幸せになれる―――
ユキヤの言葉が蘇る。
この感動を伝えたい。
そう思って、スマホを手に取ってメッセージ画面を開いた。
そこには既にユキヤから二通のメッセージが遺されていて、私はドキリとした。
【もう寝た?】
【お前が嫌がるようなことは絶対にないから】
昨夜の言い争いを思い出す。
なんであんなに怒鳴ってんだろう、私は。
自分のわがまま加減に驚いたし、独占欲の強さにも呆れ、男が怖いというより女が嫌いという一面まで見えた。私の方こそ、ユキヤに嫌われてしまったんじゃないか。
深呼吸をして、これからについて想像する。どうなるんだろう、よりも、どうなりたいか。
私はユキヤとはこれからも、一番大事なトモダチでいたい。
ユキヤもそう思ってくれているから、私の事を気遣ってくれているんだから。
気を取り直してメッセージを書き込んでいく。
【ミートパイ食べたよ。すごく美味しくてびっくりした。あげは姉さんにお礼が言いたいから、今度はユキヤに連れてってもらいたい】
食器を洗い、身支度を整えてから、仕事に向けて家を出た。
特殊スーツを着てマスクをしているのに、今日は色んな人から挨拶された。いつもはまるで空気みたいに存在を気にされたりしないのに。
持ち場で作業して、休憩に入る。休憩所のベンチで先に休んでいた中年の女性が、私を見て言った。
「あら、ものすごく良い顔してる。何か良いことあった?」
驚いてすぐに言葉が出てこない。
おばさん達は笑いながら去って行った。
マスクしているのに、良い顔ってどんな顔だろう?
鏡で顔を見ても、違いがわからない。
するとまた別の人が、後ろから声をかけてくる。
「ね。この前の夜、迎えに来てたのって彼氏?」
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