トモダチ以上にはなれない

5/6
139人が本棚に入れています
本棚に追加
/51ページ
 衝撃的な美味しさに、しばらく放心状態で口の中の余韻を楽しんだ。  ―――美味い料理があれば一瞬で幸せになれる―――  ユキヤの言葉が蘇る。  この感動を伝えたい。  そう思って、スマホを手に取ってメッセージ画面を開いた。  そこには既にユキヤから二通のメッセージが遺されていて、私はドキリとした。 【もう寝た?】 【お前が嫌がるようなことは絶対にないから】  昨夜の言い争いを思い出す。  なんであんなに怒鳴ってんだろう、私は。  自分のわがまま加減に驚いたし、独占欲の強さにも呆れ、男が怖いというより女が嫌いという一面まで見えた。私の方こそ、ユキヤに嫌われてしまったんじゃないか。  深呼吸をして、これからについて想像する。どうなるんだろう、よりも、どうなりたいか。  私はユキヤとはこれからも、一番大事なトモダチでいたい。  ユキヤもそう思ってくれているから、私の事を気遣ってくれているんだから。  気を取り直してメッセージを書き込んでいく。 【ミートパイ食べたよ。すごく美味しくてびっくりした。あげは姉さんにお礼が言いたいから、今度はユキヤに連れてってもらいたい】  食器を洗い、身支度を整えてから、仕事に向けて家を出た。  特殊スーツを着てマスクをしているのに、今日は色んな人から挨拶された。いつもはまるで空気みたいに存在を気にされたりしないのに。  持ち場で作業して、休憩に入る。休憩所のベンチで先に休んでいた中年の女性が、私を見て言った。 「あら、ものすごく良い顔してる。何か良いことあった?」  驚いてすぐに言葉が出てこない。  おばさん達は笑いながら去って行った。  マスクしているのに、良い顔ってどんな顔だろう?  鏡で顔を見ても、違いがわからない。  するとまた別の人が、後ろから声をかけてくる。 「ね。この前の夜、迎えに来てたのって彼氏?」
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!